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第21話 ファミレス


「おーっす、こんな朝早くから何だよ。二股か? 二股がバレたとかそんな感じのやつか?」

「お前と一緒にすんな。綾辻さんに告白することを決めたんだよ。翔には色々お世話になったし伝えとこうと思って」

「なーんだ、告白かよ。つまんねー……って告白!?」 

 

 正面の席に着くや否や長めの欠伸をして、眠気眼を擦っていた翔の目が一気に見開かれた。

 驚きを隠せないと言った様子で机に身を乗り出し、一体どういうことだと問い詰めてくる。


 もとよりそのつもりで、バイト2日目のシフトが始まる前に翔を行きつけのファミレスに呼び出したのだ。

 ざっと昨日の経緯を話せば、翔は満足そうに、そして茶化すようにニヤニヤとうざったい笑みを浮かべてくる。

 

「遂に秀次から告白の2文字が出てくるとはな―。電話でバイト先が同じになったって聞いた矢先にこれだ。決め手になる何かがあったんだろ? 隠さずに翔さんに教えて見なさい?」

「それは……すまん、秘密にさせてくれ。告白は俺1人で頑張るから翔は見守ってて欲しい」

「ちぇーっ。ここまで後押ししたのは俺のなのに、最後の最後で蚊帳の外かよー」

「も、もちろん翔にはめちゃくちゃ感謝してるけど……やっぱ告白は自分の力で頑張りたいと言うか……」


 翔の言う通り、片想いし続けた陽葵に告白することを決心するまでの道のりは殆ど翔の後押しのお陰であると言える。

 小説置き忘れ作戦から始まり、サイン会の整理券に全身コーデのプロデュースまで。更には告白を決めるきっかけになったのも、翔がバイトを紹介してくれたお陰だ。

 バイト先に陽葵がいることを本当に知らなかったかは未だ怪しいが、どちらにせよ翔のファインプレー。

 女の子を踏み台にて小説や整理券を手に入れたり、自分がバイトしたくないから代わりに誘うなど決して褒められた行動ではないが、結果として秀次は翔に助けられまくっていた。


 だからこその翔断ち。

 告白だけは誰の手も借りずに、自分の手で成功させようという覚悟を秀次は決めていた。


 そういう訳で、秀次は翔に花火大会について何も言わなかった。

 もし翔に言えば、協力しようと裏で手を回す可能性が十分にある。

 

 秀次なりの告白に向けた誠意と覚悟なのだが、ここまで協力してきた翔を邪魔者扱いしている感は否めない。

 不満そうに口を尖らせる翔に申し訳なくなりつつも真剣に気持ちを伝えれば、翔はニヤリと口角を上げて悪戯な表情に変わった。


「冗談だって。応援してるよ、告白成功するといいな」

「翔……」

「だから、今日は秀次の奢りな。恋のキューピット翔様の引退式ってことで!」

「自分で言うなよ……まあ、最初からそのつもりだったからいいんだけどさ。ほら、何でも頼め。今日はデザートも付けていいぞ」

「やりい。それじゃ、遠慮なく」


 余計なことを言わなければめちゃくちゃカッコいい親友で終わるのに、しっかりクズ男の一面を出していくあたり流石翔と言ったものか。


 本当に食べきれるのか、ピザにハンバーグ、ライス大にデザート2つとお財布が心配になる量を注文する翔を見て、秀次は何故か不思議と笑みを浮かべていた。 

 

 それは注文を聞きに来た店員のお姉さんにナンパまがいのことをしている翔に対しての呆れ笑いでは無い。


(こいつと親友で本当良かったな……)


 そんな絶対に面と向かって言えない気恥しいセリフを胸にしまって、秀次はあらかじめ決めておいた注文を翔に絡まれて困り顔の店員さんに伝えた。





「そういや、アッツ……綾辻さんって、ハフッ、麗秀学院に通う超絶お嬢様なんだろ? 何でまた、ウマッ、バイトなんて庶民的な事やってんだ?」

「喋るか食べるかどっちかにしろよ……」


 既にピザを平らげ、肉汁たっぷりのハンバーグを口いっぱいに頬張りながら喋る翔を呆れのため息交じりに注意すれば、何を思ったのか翔はモグモグゴクンと一気にハンバーグをお腹に流し込み、これでいいだろと口を多く開けて見せてくる。


「わざわざ電車通学なのも気になるな。麗秀レベルならヘリ通学とかありそうじゃん? 少なくとも電車は無いだろ。制服着てるだけで目立つし、誘拐とか危なくね?」

「知ってるか翔。誘拐って成功率めちゃくちゃ低いんだぜ」

「いや、そういう問題じゃねーよ。あそこの生徒は全員トップエリートの家庭に生まれたお嬢様たちだ。1人で通学、バイトさせるとは考えづらいだろ」

「俺にそう言われてもな……」


 陽葵が何故電車通学をしているのか、何故バイトをしているのかと聞かれれば秀次は明確な答えを持ち合わせていない。

 せいぜい普通でありたいと陽葵が頑張っている……気がすると予想している程度だ。

 

 長い間片想いをしていた為に陽葵の事は前から知っていたが、お互い知り合ってからはまだそんなに経っていない。

 思えば陽葵について詳しいことは全く知らないまま今に至る。


「理由、聞いてないのか」

「綾辻さん、お嬢様関係の話になるの嫌がるんだよ。無理して聞こうとも思わないし、知らないままでいいかなって」

「いやー、知っといた方がいいと思うぞ。綾辻さんもそろそろ話したいだろうし」

「何だそれ、何を根拠に言ってんだよ」


 どこか含みのある言い方に訝しむ視線と言葉を向けると、翔は秀次から目線を外して少し考える素振りを見せた。


「……俺の勝手な推測だ、忘れてくれ。まっ、とにかく告白する前に綾辻さんの事を少しでも知っておいた方がいいじゃないかなと思ってな。恋愛において相手の内面を理解するってのは大事なことなんだ。これ、俺の経験則」

「お前の経験則は特殊過ぎて当てにならんわ……でもまあ参考程度に覚えておくわ」


 告白することを決めた花火大会まで後数日、陽葵とバイトで顔を合わせるし話す時間は沢山ある。

 機会があれば陽葵について少し踏み込んだこと聞いていも良いかもしれないが、それが原因で告白前に嫌われたら最悪だ。

 だから翔のアドバイスを活用するとしても、あくまで参考の範囲だ。

 陽葵から話して来れば別だが、秀次からは興味本位で身の上話はせず、軽い質問に止めようと決めていた。

 

(未だに好きな食べ物とか、好きな色とかも知らないしな。てか誕生日も知らないわ。これくらいなら聞いてもいい……はず。会話の糸口にもなるし。今日にでも話しかけてみるか)


 翔断ちを決めたのに、意図的ではないとはいえさっそく翔のアドバイスにあやかっている自分に苦笑しつつ、秀次は注文したチョコレートアイスを口に運んだ。

 


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