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非常事態

「ふぅ……やっと出られたな」


「そうっスね」 


 俺と竜二はたくさんの化け物の屍を乗り越えて遊園地から出る事ができた。しかし、遊園地を出ても化け物の死骸は続いている。何匹の化け物がここで死んだのか想像もできない。


「これは……」


「何が起こったらこんな事になるんスかね。これが蠢いている姿なんて想像もしたくないっス 」


 巨体を持つ化け物が所狭しと打ち捨てられていた。目は無く、大きな口と鋭利な歯を持つ化け物。何をすればこのような死に方をするのかさえも想像が出来ない。内側から破裂したような死骸から、見た目では損傷の無い死骸。干上がったようになった死骸など様々だ。


 俺と竜二はそんな死骸を避けながら山を下りる。地面はアスファルトではあるが、凸凹が多い。ガードレールは綺麗に保っている物と、そうでない物があった。


 山道特有の連続するカーブの道を歩き続け、化け物の死骸も少なくなったように思えた。山道を下りる途中で見える街の景色は始めはミニチュアのように見えていた物も、ハッキリと目に捉える事が出来る。


「大分降りて来たみたいだな」


「歩けば化け物の死骸ばかり。嫌になるっスね」


 俺と竜二は何事も無く街へ下りる事が出来た。そして、この街にも化け物の死骸で溢れていた。少し違うのは化け物の血の量だろうか。遊園地で見た時よりも遥かに多くの化け物の血が建物や道路に付着していた。そして、俺は見付けてしまった。生きている化け物を。


「竜二っ! 隠れろ。化け物がいる」


「一匹だけみたいスけど」


 俺と竜二は化け物に見付からないように隠れながら移動する。できるだけ足音を立てないように。


 隠れるスペースの無くなった俺と竜二はビルとビルの隙間の路地に回り込んで化け物を監視する。そして、化け物に動きがあった。死んでいる化け物を生きている化け物が持ち上げたと思ったらそれを食べはじめたのだ。


「共食いかよ」


 耳に障るような気色の悪い音を立てながら共食いをする化け物。俺と竜二はただそれを見ているだけだ。この化け物が動かないと俺達は動けない。


 一瞬、化け物がピクリと動く。俺はその化け物の行動がよく分からなかったが、その理由にすぐ気付く事ができた。轟く足音が化け物に向かって行く。それに気付いた化け物は食べるのを止めて俊敏な動きでそれの攻撃を避けた。


「ロ、ロボット?」


 しかし、ロボットと言うには生物的な雰囲気もあるそれは黒く大きい。化け物と同じくらいの大きさだ。


 ロボットと思われるそれは片刃の剣にも似た武器を使っていた。紫電が刃の部分でスパークしている。ロボットはロボットとは思えない機敏な動きで化け物を追い詰めていたその時だった。――化け物の増援だろうか。化け物がさらに2匹現れたのだ。俺はただそれを目で追う事しかできない。


 化け物は連携を取る事もせずにロボットへと襲い掛かる。ロボットは化け物の攻撃をジャンプ一つで避け、化け物の1匹を紫電の刃で切り付けた。化け物の傷は浅かったようで背中を切られた事にも気にしないようにロボットへの攻撃を再開していた。化け物はただロボットを掴むか、殴り掛かろうとするだけだ。


「す、すげぇ」


「なんなんスか……これ」


 俺と竜二は目を合わせた。そして惚けながらロボットと化け物の戦いへ目を移す。 


「あれ? あの切られた化け物の傷ふさがってないか?」


 俺は化け物の傷が修復されていく様を見た。化け物は動き回っているし、背中に血も付いていたのでよくは見えなかったが、流れていた血も止まり、瘡蓋のような物が出来上がっている。


「どうやって倒すんだよ。あんなの」


 ロボットは化け物の攻撃を避けては切るを繰り返していた。そして、1匹の化け物がロボットへと突進する。突進してきた化け物に対し、ロボットは紫電の剣の切っ先を化け物に向けた。化け物は止まる事もしないまま紫電の剣へと突進し串刺しになる。串刺しになって一瞬の間が開いてから、化け物はぶくぶくと膨らみ始め弾け飛んだ。 


 弾け飛んだ化け物の腕が俺の近くまで飛んでくる。


「ひっ――!」


 化け物の腕はまだ神経が生きているたようでピクピクと痙攣していた。


 俺が再びロボットと化け物の戦いに目を移すと、ロボットは化け物の足を切断していた。足を切断された化け物はのたうち回る。そして、ロボットがもう1匹の化け物を突き刺して化け物は爆散する。足を切断されていた化け物は腕のみで這いながらロボットに向かって行くもジャンプで避けられ、着地と同時に紫電の剣で突き刺されて弾け飛んだ。    


「す、すごかったな」


「そうスね」


 ロボットと化け物の戦いを見た俺と竜二はただただ唖然としていた。3対1と数では不利だったロボットが一方的に化け物を倒した形で終わり、しかも、その動きの速さは突出していたと思う。


 俺と竜二は恐る恐ると言った感じで表通りへと出た。ロボットは俺と竜二には気付かなかったらしく、化け物を倒した後、すぐに走ってどこかへ消えてしまった。


「なんだったんだ? あれ」


「俺も分からないっスよ。あんな物見た事も無いっス。こちらの世界の技術なんでしょうけど」


 黒いロボットは生物的ではあったが、剣を持っていたり、どう考えても人が造り出した物だろうとは思う。


 ただ、あれががアヌなのか、人間なのか、それともナキなのか。もしも人間やアヌならば俺達に活路は見出だせる。だがナキならばどうだろうか。竜二はナキをアヌの敵と言った。アヌの敵ならアヌが創り出した人間もナキの敵になるだろう。  


「とりあえずあのロボットの向かった方に行ってみるか」


「そうっスね。この惨状スからあっちに行けばあのロボットもいるし、人がいる可能性も高いから良いんじゃないスか」


 俺と竜二はひたすらに歩いた。俺達が向かっているのはロボットの走って行った方角。そして、それは俺達の家のある方角でもある。


 俺達は線路沿いを歩き続けた。そして、日が傾いて来る。化け物の死骸の数は減ったが、それも無い訳では無かった。所々に横たわる化け物の死骸。いや、死骸だった物だと表現した方が良いかもしれない。化け物の死骸は全て弾け飛んだ風だったからだ。四肢がもげていたり、跡形も無かったりと様々ではあったが、言えるのは遊園地で見た死骸と、街に下りてから見た死骸の形は様変わりしていたと言う事だろうか。


「しかし、これだけの化け物がこの世界を蹂躙してるなんて恐ろしいな」


「本当にそうっスね。生身じゃ絶対に勝つ事の出来ない相手っスからね」


 忌ま忌ましそうに化け物の死骸を睨む竜二。日が傾き、オレンジ色に染まった街を見ていると、化け物が俺を襲い、奏が犠牲になった時の事を思い出す。俺にはまだまだ時間が必要だ。昨日の出来事なのだから当たり前なのかもしれないが。



「夜に動くのは危険っスね。化け物が来ても気付けなかったらおしまいスから」



 竜二が言うように夜に行動をするのは危険だと思えた。この街には電気が来ていない。すでにゴーストタウンと化した街に電気なんて届いているはずも無いし、そもそも、電力設備が破壊されている可能性もある。その為、夜になると光の無い空間になってしまう。


「どこか家に入るか」


「それが良いっスね。あ、あの家なんかどうスか?」


 竜二が指を指したのは線路から少し離れた場所に建っていた2階建ての家だ。


 俺と竜二はその家へと向かい玄関のドア引いてみる。鍵は掛かっておらず、すんなりと家の中へ入る事が出来た。


 日が傾きかけた時間だ。家の中もそれなりに暗く、俺は携帯のライトを使って明かりになる物が無いかを探した。家の中を漁るその様はこそ泥にも似ていると思ってしまったが、これは生きる為に必要な事だと自分に言い聞かせる。俺と竜二は手分けをして使えそうな物が無いかを探した。見付けたのはタオルや衣服と言った物、そして蝋燭だ。蝋燭とタオルを何枚か持って、俺は竜二と合流する。


 竜二と合流したのは和室だ。客間のように使っていたらしく、押し入れを開けると布団が綺麗に畳まれていた。


「俺はタオルと蝋燭を見付けた。もっと探せばあるんだろうけど、ちょっとな……」  


 人がいないと分かっていても他人の家を漁るのは気が引けたし、スマホの充電もいつ切れるかは分からない。まだまだ余裕はあるが出来るだけ節約はしたいと思っていた。


「俺の方は防災袋とお菓子を見付けたっスよ」


 俺が竜二の手元を携帯のライトで照らし、竜二は防災袋を開ける。防災袋の中にはペットボトルの水、かんぱんやビスケット、チョコレートと言ったお菓子類。それに懐中電灯にライター。筆記用具が入っていた。


「キッチンに行って食べ物が無いか探してくるよ」


「了解っス」


 日は完全に落ちて夜になっていた。俺は懐中電灯を取り、キッチンへ向かう。冷蔵庫を開けてみたい衝動にも駆られたが、ここは我慢した。生ものが入っている可能性も考えられた為、気が引けたのだ。俺はキッチンを漁る。カップ麺やカセットコンロにガスボンベを見付け、和室へと戻った。和室へ戻ると竜二はテーブルに蝋燭を立てて火を付けて待っていた。


「カップ麺にカセットコンロを見付けたぞ。鍋も持って来た」


「良いっスね。これで飯が食えるっスよ」


 竜二は蝋燭に照らされた顔で笑っていた。俺と竜二は一日何も食べていない。ここに来て、今日初めての食事にありつけるのだ。笑顔にもなるだろう。ただ、蝋燭に照らされた竜二の顔は怖かったのだが。


 俺は鍋に水を注ぎ、カセットコンロに火を付けた。水を沸かして、カップ麺を食べる為である。沸騰したお湯をカップ麺へと注ぎ数分待ってから、俺と竜二はカップ麺を食べた。カップ麺の濃い味のスープが口の中に広がり食欲をそそる。化け物がいつ現れるのかと一日中緊張し続けていた為、気付いていなかったが、俺はかなり空腹だったようだ。空腹は最大の調味料とは良く言った物で、今までに食べたカップ麺の中で断トツに旨いと感じたカップ麺だった。


 俺は恐怖を紛らわすように竜二と喋った。俺一人だと、ただ呆然とし遊園地から出られたかも分からない。竜二がいてくれたおかげで今、ここで俺は生きていると思う。そして、布団を敷いた俺達は明日に向けて横になる。寝ようとするも中々寝付けなかったが、体は正直で気が付けば疲れた体を癒すように俺は眠りに落ちていった。


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