表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

仲間とは自然に集まってくるものだ

 俺と翼、そして環は繁華街まで来ていた。休日ということもあって、河川敷以上に人が賑わっている。俺は湿ったお尻をさすりながら歩いている。摩擦で早く乾かないかと期待を持って。


「そんなに尻が気になるのか? 考えも無しにあんなところに座るからだ」


「うるせぇ。俺だって芝生が濡れてるなんて事、考えて無かったんだよ」


 パンツまで染み込んだ水分はとても気持ち悪い。しかも、お尻の部分だけ湿っているため、それが目立つ。


「西条君が以外とおっちょこちょいだって事は分かったわ」


 翼にまで俺は笑われる。周りを歩いている人は誰も注目なんてしないだろうが、知らない人に笑われているのではないかと気になって仕方がない。


「俺の事なんかより、お腹空かないか? なんか食べようぜ」


「そうだな。もう昼も近いし、店が混み出す前にどこかに入るか」


 翼に目配せすると何も言わずに頷いた。翼も賛成という事だろう。俺たち三人は適当な店を探す。


「何か食べたいものとかあるか?」


「私はなんでもいいわよ」


「ファミリーレストランというものに私は興味があるな」


 翼はあくまでも自己主張をするよりも合わせるといった感じか。本当になんでもいいのかもしれないが。環はファミリーレストランに興味があると言う。ファミレスに入った事すら無いようだ。


「んじゃ、あそこにするか」


 俺は安さが売りのチェーン店を指差した。表通りの人目の付きやすい場所に店を構えている。


「分かったわ」


「おお。私はなんだかドキドキしてきたぞ」


 翼は一歩引いた感じで、環はぐいぐいと引っ張っていくタイプだ。翼と環が談笑したりしているのを見ていると、この二人は以外と相性が良いのかもしれない。


 お昼より少し早めの時間という事もあって、ファミレスはまだ人もごった返すような事も無く、俺たちと同じように早めに店に来て席を確保しておこうと言った感じの人達だろうか。それでも半分くらいの席が埋まっているのを見ると、早めに店に入ろうと提案したのは良かったと思う。


 俺達は店員から案内された席へ座る。俺と翼が向かい合い、環は俺の隣ではなく、翼の隣に座っていた。


 いつもは入らない店に興味があるのか環はキョロキョロと辺りを見回している。委員長はメニューを取り出して環に話しかけている。


「環は何を食べるの? 私はグラタンにしようかと思っているけれど」


「そうだな。ガッツリとステーキでも食べよう」


 そんな二人を見ながら俺は適当にメニューを漁り、カルボナーラを頼む事にした。呼び出しボタンで店員を呼び、それぞれが食べたい物とドリンクバー注文する。


「それじゃ、ドリンクを取りに行くか」


「そうね」


「達弥は待っていろ。私が持ってきてやる」


 俺がドリンクを取りに行こうとすると、環が俺に待っていろと言う。環のその目はなにかを企んでいるような。そんな目をしていた。


「いや、俺も行くから」


「大丈夫だ! 心配するな」


 心配するなと言われると逆に心配をしてしまう。環のやろうとしている事が頭に浮かぶからだ。


「西条君。私も行くから安心して」


 翼にそう言われると俺も行くとは言いにくい。環は勝ち誇った目を俺に向け、両手を腰に当てて胸を張っている。


「わ、分かったよ。待ってればいいんだろ?」


 せめて、飲める物をと祈りながら俺は待つ事に決めた。委員長では環を止める事は出来ないだろう。


 環が得体の知れない何かを持ってくる事は分かっている。そんな奴だ。少しソワソワしながら待っていると、はちきれんばかりの笑顔をした環、そして翼だ。その顔を見た瞬間、俺は悟る。この二人がグルだったと。


「ほら、持ってきてやったぞ」


「ごめんね。西条君。私には環を止める事ができなかったわ」


「何を言っている。翼。君もノリノリだったじゃないか」


 環もそんな事するんだなと思いながら、この世の物とは思えない色をしたドリンクを見る。色の表現の仕方が分からない。そんな色をしていた。


「ほら。せっかく持ってきてやったんだ。飲むといい」


「くっ――分かったよ。飲むよ」


 ゴクリと唾を飲み、自分の喉仏が上に上がるの感じた。一呼吸置いてから俺はそれを口に含んだ。


 一瞬、世界が止まり、モノクロに変わった気がした。グラスから俺の口に流れていったそれは口の中で芳醇な香りとともに程よい酸味が加えられ、炭酸が口の中で踊る。後になってから、まろやかな甘味が口の中で主張をしだし、最後にはそれが絡み合う。何を混ぜたんだ……一体。


「どうだ? 美味いだろ」


「……美味くねぇよ。なんだよこれ! どこの悪魔がこんな物を」


 次々と己を主張し、我こそが主役だと踊り出る味たちに何とも言えない気持ちになる。捨てるのは忍びない為、グラスに残ったドリンクを一気に飲み干して、俺は新しいドリンクを取りに行った。


 戻ってくると、翼も環も笑いを堪えているといった風に見える。それからこの、魔ドリンクの話などで盛り上がっていると、料理が運ばれてきて、それぞれが食べ出した。


「このステーキは多少固いが食べられない味ではないな。値段と比較してもそれ相応の味と行ったところか。まずくはないぞ」


 環は自分の頼んだステーキを批評しながら、委員長はそれをうんうんと聞きながらグラタンを食べていた。俺の頼んだカルボナーラは美味いけれど、それだけと言った感じだ。普通に食べられる。


 食事を終えた俺たちは少し談笑をし、支払いを済ませてからファミレスを出る。ファミレスを出た時に見たことのある顔が歩いているのが目に見えて、それを追いかけた。


「竜二! 一人でなにやってるんだ?」


「たっちゃんひどーい! 私もいるんだからね!」 


 背の高い竜二は周りを歩く人達に比べても頭一つ抜けており、すぐに分かったのだが、奏は竜二の影に隠れていた為、気がつかなかった。


「お、奏もいたのか。二人でなにやってたんだ?」  


 奏と竜二が仲良く? やっているのは一昨日の学校で分かっていたが、いくらなんでも進展しすぎだろう。小さい頃はいわば敵同士のような関係だったはずだ。


「冒険がてらこっちの繁華街の方に遊びに来たら、あそこのハンバーガーショップで奏とたまたま会ったんスよ」


「竜二ちゃんが一人で食べてたから話しかけちゃったんだよね」


 笑いながら話す奏と竜二。可愛らしい雰囲気の奏と恐ろしい雰囲気を醸し出す竜二のペアはなんともミスマッチに見えた。


「急に走り出すから驚いたぞ。達弥」


「ああ。すまん。翼に環。知っている顔が歩いていたからついな」


「相澤さんに天野君じゃない。こんなところで奇遇ね」


 俺に追いついた二人はそれぞれに口を並べる。環と奏は一度顔を合わせているから問題無いだろうが、環と竜二は初対面だ。


「委員長もいたんスね。それとこちらは……」


「私か? 私は三住環だ。環でいいぞ」


 竜二は真剣な表情で環を見る。真剣な表情になる竜二は顔の凄みが増している気もする。初対面でこの顔をされると逃げ出したくもなる。


「この人は竜二ちゃんって言うんだよ! 二人でたっちゃんを守る同盟を組んでるの!」


「なんスか? その紹介は。俺は天野竜二って言うっス。俺の事も気軽に竜二って呼んでもらえると嬉しいっスね。よろしく。環」


「竜二か。良い顔をしているな。美鈴と似た雰囲気も持っているようだ」


 環は何を言っているのだろうか。美鈴さんと竜二では似ても似つかないと思うし、雰囲気なんて竜二はいかにもな雰囲気であるし、美鈴さんは冷静で才色兼備という完璧主義者な雰囲気だ。


「良い顔なんて初めて言われたっス。お世辞でも嬉しいスね」


「お世辞なんかじゃないさ。ハハハハハ」


 高笑いする環に人の視線が集まるも環自身は気にした様子は無い。竜二も竜二で違う意味で視線を集めている気もする。


「たっちゃんは何をしてたの?」


「委員長に傘を返しに行ったついでにぶらつこうってなったんだよ。途中で環と会って、さっきまで飯を食ってた」


 奏の質問に対して素直に答える。こんな所で嘘なんてついても仕方の無い事だし、委員長の目の前で嘘もつけない。嘘どころか、卑しい事なんて一つも無いのだから正直に答える。委員長との初デートは未遂に終わってしまっているが。


「それじゃ、相澤さんと天野君も合流するかしら? 西条君も男子一人だと可哀相だし、大勢で遊んだ方が楽しいと思うし」


「翼ちゃんナイスアイデア! 最近たっちゃんと遊んでなかったし嬉しい!」


「そうっスね。奏と二人で行動しててあらぬ誤解を受けるのもめんどくさいし、俺も合流して一緒に行動するのに賛成ス」


 いつの間にか環との会話を終わらせていたのか、竜二も翼の意見に賛成する。奏はダメだと言ってもついて来るだろうし、翼と二人きりというシチュエーションは環の登場で破綻してしまっているから、俺も問題は無い。


「おお。私はこんな大勢で遊ぶのなんて初めてだぞ。楽しみだ」


 環はずっと孤独だったんだろうなと予想が出来た。美鈴さんがいると言っても、それは主従関係に似たもので友達とは言えないだろう。


「それじゃどこに行こうか」 


「私買いたい物あるから買い物行きたいよ!」


 思ったよりも大所帯になった俺達は奏の一言でまずは買い物に行こうという事になった。デパートに入り、奏が欲しいという物が売っている雑貨店に入る。


「西条君。何を見ているの?」


「このキーホルダー変わってるなと思ってさ」


 俺が見ていたのは、小さなベルのキーホルダーだ。ちゃんとした鐘になっており俺が一回振ってみるとチリンと可愛らしい音が鳴った。俺が持っていたキーホルダーを翼に渡す。翼は俺の真似をするようにチリンチリンと音を鳴らした。


「こんなのもあるのね。可愛いわ」


 委員長はそう言いながらそのキーホルダーを元あった場所に戻す。


「翼ちゃんこっちこっち! 面白い物あるよ!」


 楽しそうに色々と見て回っている奏に呼ばれた翼は無言で立ち上がると奏の元へ行き、何かを見て笑っていた。翼と入れ代わるように竜二が来る。


「委員長と良い感じじゃないスか」


「委員長との距離は縮んだかな」


 俺ははにかみながら竜二に言うと、竜二は笑顔で頷いた。竜二の笑顔が怖い。


「ちょっとレジに行ってくる」


 竜二に声を掛け、俺は委員長と一緒に見た小さなベルのキーホルダーをレジに持って行きお会計を済ませ終わった頃にはみんな店の外で俺を待っていた。


「カラオケという所に行ってみたいぞ」


 俺がみんなの元へ戻った時に、環がカラオケへ行きたいと提案を出していた。時間もまだまだ余裕はあるし良いだろう。


「よし! 次はカラオケに行こう!」


 俺はみんなをまとめるように次の目的地を確定させる。環は本当に楽しそうにしているし、翼もすごく楽しそうだ。奏は毎日が楽しそうだ。竜二も以外と楽しそうにしているし、俺も楽しい。



 そして、俺達はカラオケに到着した。驚いたのが竜二が顔に似合わず歌が上手かった事だ。委員長はそれと反対で苦手なようだった。奏は元気にダサイダーVのテーマを歌う。環も奏と一緒に歌っていた所を見ると、環もダサイダーVが好きなのだろうか。カラオケの時間も終わり、またもや環の提案でゲームセンターに行こうとなる。


 ゲームセンターでは環がはしゃぎっきりだった。翼もゲームセンターは初めてだったらしく、環と盛り上がっていたりする。


「じゃあ、最後にプリクラ録ろうよ!」


 奏の提案に誰も反対はしない。楽しい思い出を最後に残すという事だろう。


「私が一番前だな」


「私も前がいい!」


 目立ちたがり屋な奏と環が前列を陣取って後列に俺、竜二、翼といった形で陣取った。プリクラを撮り終わり、落書きなどは女性陣が担当し、シールが完成して出てくる。


 竜二が上手く笑えていなかったり、奏が前に出すぎて、どアップで写っていたりもしたが、みんな良い笑顔で写っていると思う。翼が全員分に分けて切り、渡してくれた。


 俺と翼の初デートはデートでは無くなってしまったが、すごく楽しい休日を過ごせたと思う。俺達は途中まで一緒に帰り解散した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ