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第5話

 その時だ。

 盾になっていたベルが女の子の姿になると俺に手を伸ばした。

 俺も反射的に彼女に手を伸ばす。

 ぎりぎり俺と彼女の手が触れた瞬間、彼女の姿は消え、代わりに左腕に盾が現れた。


「なっ!?」


 それが一瞬のことだったので魔王もさすがに驚いたようだった。

 

 盾を装備できたおかげでさっきまでの息苦しさが嘘のように消える。

 目の前には本性を現した魔王がいる。


「ちっ! お姉さまのおかげで命拾いしたわね」


 魔王は姿を消した。

 盾を装備している俺には手が出せないのだろう。

 

 それから俺たちは急いで城からの脱出を試みた。

 こんな危険なところにいつまでも安心していられるわけがない。

 どういうわけか魔物たちは追って来なかったので簡単に逃げ延びた。


 

 俺たちはその日、適当な場所で野宿することにした。


「危うく魔王に殺されるところだった」


「お前が油断するからだ」


「全くそのとおりだ」


「これからどうするつもりだ? やはりあいつを守るのか?」


「そうだな、俺を殺そうとした相手を守る、というのもな……」


「あいつは油断がならない。私もあいつに騙し討ちのように封印された。そうでなければあんなやつにこの私が」


 ベルは思い出して怒りに震えている。

 

「でも、俺はこれまでバカにされて生きてきた。村人だからと。それが赦せない。俺は今回殺されかけたが、魔王にそこまで深い恨みがあるわけじゃない。魔王なんて悪党で当たり前だし、今日の一件はむしろ俺が悪いしな」


「では、相変わらず、魔王を倒そうとするものたちの阻止か?」


「ああ、そうだな。俺はこれまで俺のことをバカにしてきた連中に復讐したいだけだ。俺をバカにしてきた連中ってのは勇者とか賢者とか魔剣士とかそういう魔王を討伐をする連中が多い。そんな連中に一泡ふかせてやりたい」


「復讐のために生きるか……。それ自体は嫌いじゃないが」


「そう言えば忘れてたけど、盾の中に神官を吸収したままだったな。あいつ大丈夫なのか?」


「長い間、放置していれば衰弱して死ぬ」


「さすがに人が死ぬのは嫌だな」


 そこで俺は盾から神官のおっさんを出した。

 吸収されたおっさんはグリフォン同様、俺たちのいいなりだった。


「神官のおっさん、訊きたいことがある」


「なんでしょうか、ご主人様?」


 ご主人様だってよ。


「相手を転職させる魔法というのは日に何回くらい使えるんだ?」


「特に制限はありませんが、一度転職すると次まで1ヶ月の間は転職できません」


「なるほど。それで誰でも転職させられるのか?」


「その人物が転職できる職業なら」


「じゃあ、俺がムカつくやつがいるとする。そいつが望んでないにも関わらず、そいつのことを村人に転職させることはできるのか?」


「はい、できます。村人になれない人はいないので。そして、ご主人様のご命令であれば、誰であろうと村人にいたします」


「そうか」


 それを聞いて俺はテンションがあがった。

 これからむかつく相手を全員村人にすることに決めた。

 村人の惨めさを思い知らせてやる。

 と、そんなことを考えていたところで。

 

「とりあえずお金がないな。何かやって金を稼ぐか」



 それで俺は次の日、闘技場に行ってお金を稼ぐことにした。

 闘技場では相手に勝てば自分がかけたお金の何倍かが手に入る。そして、何倍もらえるかは相手の職業と自分の職業によって決まる。

 簡単に言えば自分が村人のような下級な職業で、相手が勇者や賢者のような上級職の場合、もらえる額が上がるのだ。


 俺は村人なので金儲けしやすいというわけである。

 

 トーナメント方式で行われ、1勝するたびにお金が入る他、優勝すると優勝賞金まで手に入る。


 最初の相手はパラディンだった。白銀の鎧には豪華な金の模様が飾りつけられている。

 いわゆる聖騎士なわけで当然上級職だ。

 

「村人でパラディンの私に挑もうとは。棄権すれば良かったものを」 


 一言めの挨拶がこれだ。

 痛めつけた後、村人に転職決定である。

 

 戦いが始まった。パラディンは剣を抜くと素早くこちらに走り寄ってくる。

 俺は振り下ろされる剣を盾で受け止めた。


「ぐああ!」


 攻撃が反射され、パラディンは手傷を負う。 


「なんだ、今の攻撃は?」


「降参するなら今のうちだ」


「なにを!」


 また突っ込んでくる。

 そんなことが何回かあって、勝敗は決した。



「この私が村人に負けるなど……」


 戦いが終わってから、落ち込んでいるパラディンを見つけると、俺は容赦しなかった。


「おっさん、こいつだ。こいつを村人にしてくれ」


 神官のおっさんは魔法を唱え始める。


「な、なんだあんたは?」


 パラディンはそんなことを言っているうちに神官の指先から出た光に包まれる。


「シャインボケーション!」


「ん? なんだ? なにをした、あんた? なんか体から力が抜けていくような……」


 そして、村人には重すぎる重装備を脱ぎ出す。

 確か、昨日も神殿で似たような展開になったな。


「ダメだ、こんなもの着てられない。一体私に何をしたんだ!?」


「あんたを村人に転職させた」


「な、なんだって!? でも、転職は神殿でしかできないはずでは!?」


「その証拠に鎧が装備できなくなっただろ? 村人ライフ楽しめよ、じゃあな」


 俺はおっさんと一緒にその場を去っていく。


 

 その後、次の試合までの時間を闘技場の中で潰していると。 

 

「兄さん! 兄さんじゃないか! こんなところで会うなんて!」


 突然、聞き覚えのある声がした。振り返るとそこには俺と同じく黒い瞳に黒髪の見慣れた顔の少年が立っていた。歳は俺のひとつ下の16。青い鎧を身にまとっている。

 俺の弟、ロルだ。


「ははは、兄さんが闘技場なんてずいぶん場違いだね。試合観戦?」


「ロル……」


 こいつの鼻につく笑い声を聞くだけで不快だった。にこにこした顔もぶん殴ってやりたいくらいだ。

 俺の人生はこいつのせいで惨めそのものになった。

 というのもこいつは、俺と違い、ほとんどあらゆる職業に高い適性があり、あっという間に勇者になってしまったのだ。

 それに引き換え俺は村人以外にはなれない。

 それでどれだけ惨めな思いをしてきたか。家族からもバカにされてきた。


「試合観戦しにきたなら、次の試合、見ていってよ。俺、出場するんだ。えっと、で、俺の対戦相手は……。え?」


 掲示板によると、ロルの次の対戦相手は俺だった。


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