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第4話

 俺たちはデーモンに付いていった。

 やがて、近づいてくる魔王城。

 ベルは盾の姿になり、それからは無言のままだ。

 魔王を倒したいと思っている彼女が、内心何を考えているのか分からない。

 だが、俺に魔王を倒す気がなければ、彼女にはおそらく何もできない。


 デーモンのおかげで魔王城の結界内部に難なく入れた俺たちは、あっという間に城の最奥部の巨大な扉の前に案内される。

 やはり、この奥に魔王がいるようだ。

 さっきはここで引き返したが、今回はとうとう魔王にお目通りが叶うわけだ。


 扉が開かれる。

 そこは謁見の間のようであった。

 奥に玉座があり、そこに座っているのは。

 俺は目を疑った。

 そこには赤いローブを身にまとい、銀髪のツインテールと血のように赤い瞳をした、年の頃は15歳くらいの少女が座っている。


 案内役のデーモンがその少女に向かってうやうやしく礼をした。

 

「魔王様、連れて参りました」


 やはり、この女の子が魔王。

 まあ今は盾の姿になっている邪神様も女の子の姿を取っているから、そこまで驚かなくてもいいのかもしれない。


「ご苦労様、あなたは下がっていいわ」


「はっ」


 デーモンは言われたまま下がる。

 すると、彼女は俺の方を見て、にこりと笑う。


「ようこそ、あたしの城へ。って言ってもあなたたちはさっきその扉の前まで侵入したみたいだけれど。人間でそこまで来たのはあなたが初めてよ。で、あなた名前は?」


「俺はグラン。村人だ」


「ふふふ、人間界最弱の職業の村人がここにいるというのも不思議なものね。勇者たちが乗り込んでくるなら分かるけれど。そう思わない、お姉さま?」


「ん? お姉さま? どういうことだ?」


 俺は一瞬どういうことか分からなかった。


「お姉さま、いつまでそんな姿でいるの? 約1000年ぶりのご対面だというのに。お顔を見せて」


 だが、ベルは相変わらず盾のままだ。

 っていうか。


「お姉さまってまさかお前ら!?」


「そう、姉妹よ、あたしたち」


 勝ち誇るような魔王。

 そう言われれば確かによく似ている。ベルが少女の姿を取ったときの二人の違いなんて服装をのぞけば、髪と瞳の色くらいだろう。


「ところで、俺はなんでこんなところに呼ばれたんだ、ただの村人なのに」


「ふふふ、そうね。本題に入りましょう。グラン、あなたはお姉さまの力を借りたとはいえ、神殿の転職機能を失わせた。それはとても大きなことなのよ。神殿には魔物や魔族を決して寄せ付けない強力な結界が張られていて、あたしたちでは近づけなかった。あたしたちにはできないことをあなたはやってくれたというわけ。それでまずはあなたに感謝しなければと思ってね」


「そ、そうなのか」


「にしても、どうしてそんなことをしてくれたのかしら?」


「それは俺のためだ」


「え?」


「俺は盾になったベルと出会って、力を得た。なのに、お前がやられちまったら、封印が解けて俺は最強の盾を失ってしまうことになる。そしたら、俺は最弱の村人だ。それが嫌だった」


「なるほど、それであたしを守るために神殿に行ったというわけね。よく分かったわ」


 満足げにうなずく魔王。


「それにしても、お姉さま、さっきからどうしてずっと黙ってるの? 久しぶりの再会を祝いましょうよ」 


「貴様!」


 盾から殺気のこもった声が響く。


「怖いわ、お姉さま。1000年前のことを未だに根に持ってるの?」


「今すぐ、私の封印を解け! そうすれば、苦しまぬよう貴様を一瞬で殺してやる!」


「お姉さま、物騒よ。そんな怖いこと言わないで。お姉さまがあたしを一瞬で殺しかねないほど強いから、封印せざるを得なかったのよ」


「くっ!」


「グラン、だったかしら? お姉さまはめちゃくちゃ強いのよ。本当にあたしを瞬殺しかねないくらいに。人間があたしを倒したら、きっと後悔するわ。代わりにお姉さまが復活してしまうのだから。魔王を倒して世界平和なんて嘘っぱちなのよ。お姉さまを封印したあたしにはむしろ感謝してほしいものよ」


「俺は感謝してる。最強の盾を手に入れることができたのはお前のおかげだ、魔王。だから、俺はこれからもお前のことを守る」


「人間から、あたしのことを守るなんて台詞を聞くことになるとはね。分からないものね。それで、あなたにはもう1つ提案があるの。あたしの下で働かない?」


「それは部下になれと?」


「ええ。あたしに仕えるなら優遇するわ」


「優遇って?」


「あたしの見たところ、あなたは今強い力を得て、それを行使したいと考えている。そのような活躍の場ならいくらでも与えられるわ。もちろん、貧しい村人生活とは違って裕福な暮らしも約束する。あたしは実力主義だから出世に関しても人間だからと軽んじたりはしない」


 魔王からこんな申し出があって、俺は正直興奮した。


「そうだな……でも」


 盾は無言を貫き通している。

 

「ベルが認めてくれそうにないな」


「それもそうね。お姉さまはあたしのこと、文字通り殺したいほど憎んでいるから。あなたもお姉さまの仲が悪くなったら色々と大変でしょうから、返事はまた考えておいてもらおうかしら。今日のところは泊まっていきなさい。部屋と食事を用意してあるから」


 

 

 そして、俺はデーモンの案内できれいな部屋に通された。魔王の城にこんな部屋があるとは驚きだった。

 俺は部屋でくつろいでいた。

 この後、食事が出るらしい。

 俺は完全に気が緩んでいた。

 

「にしても、ずっと盾を装備してるのも疲れたな」


 盾から手を放してしまったのだ。

 

「グラン!」


 盾から声が聞こえたがもう遅かった。

 突然俺は息ができないような苦しさに見舞われ、自分で盾を手に取ることができない。

 その時、目の前に突然魔王が現れる。

 恐ろしい微笑みを浮かべていた。


「まさかそこまでバカだとは思わなかったわ、さすが村人ね。あたしの城は障気で満ちている。普通の人間じゃとても耐えられない。あなたは盾によって守られていたのよ。それなのに簡単に盾から手を放してしまうなんて、大バカね」


「た、助けて」


 俺はあろうことか魔王に助けを求める。

 息ができない。


「助ける? 助けるわけないでしょ? 封印し誰にも見つけられないはずのお姉さまを見つけ出した警戒すべき存在なのよ、あなたは。だから、ここで死になさい。神殿の転職機能を奪ってくれたお礼として、死ぬところは見届けてあげるわ。感謝なさい」


 魔王の瞳が妖しく光っていた。



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