第3話
「あなたは何者ですか?」
逆にアリアスが訊いてくる。
「俺はただの村人だよ」
「この騒ぎ、ただ事ではないでしょう。それを起こしたあなたもただ者ではないと思いますが」
すると、後ろから追っかけてきた冒険者がアリアスに話しかける。
「アリアス、こいつは魔王の部下らしい。それで神官様をどこかにやってしまったんだ」
それを聞いたアリアスはうなずく。
「そういうことですか」
奴は剣を抜く。それは緑色の刀身を持つ美しい剣だった。
「神官様に危害を加えたとなればただでは済みません。まずは神官様を返してもらいましょうか?」
勇者は目にも止まらないスピードで一気に俺との間合いを詰めると剣撃を繰り出してきた。
それは結界によってことごとく防がれる。
アリアスは後ろに飛び退いた。
「なにやら結界のようなものが張られているようですね。それも相当に強力な」
すると、アリアスは剣を収めた。
「ここは狭い。続きは神殿の外で行いましょう」
のぞむところだ。
神殿の外で対峙する俺とアリアス。
その周りを冒険者たちが取り囲んでいた。
「さあ、かかってこいよ、勇者様」
俺は敵の攻撃を誘う。
すると、アリアスは満足げにうなずく。
「先ほどからあなたの相手をしていて、分かったことがあります。どうやら、あなたは鉄壁の防御に守られていますが、自分自身攻撃手段を持っていない。僕の攻撃を誘うというのはおそらく防御が最大の攻撃ということなのでしょう」
べらべらとよくしゃべるやつだ。
だが、そんなことが分かったところでどうにかなるわけでもないだろう。
アリアスは剣を抜いた。
「あなたの防御力がいかほどのものか試させていただきましょう」
奴の剣が白く光り始める。
「シャインブレイド!」
振り下ろされたアリアスの剣先から光刃が放たれる。
しめた!
俺はそれを盾で受け止める。
光刃は反射され、放ったアリアスのほうへ飛んでいく。
だが。
すんでのところでアリアスはそれをかわす。
さすが勇者といったところだ。
「なるほど、今のがあなたの攻撃手段なわけですね。
相手の攻撃を反射させる。ですが、それ以外に攻撃手段はなさそうですね。あなたから攻撃的な意思を一切感じませんから。あなたはただ待っているだけ。おそらくあなた自身には何の力もなく、その盾に守られているだけなのでしょう」
そこまで言い当てるとはこいつかなり勘がいい。
しかし、事実とはいえ、盾に守られているだけの無力な奴と言われてしまうことに俺は腹が立っていた。
「ベル、何かこちらから仕掛ける方法はないのか? お前は俺と手を組めば魔王を倒せると言った。ということはなにか攻撃手段もあるはずだろ?」
「今なら攻撃方法がないこともないが」
「どんな攻撃だ?」
「吸収したさっきの人間の魔法を使うことができる」
「なるほど」
「ただし、一度使うとしばらく使えない」
連射はできないということか。
やはり所詮は盾。攻撃力は乏しいか。
どうすれば。
「さっきのおっさん、どんな魔法が使えるんだ?」
「光魔法ばかりのようだな」
「あの勇者に有効そうなものはあるか?」
「通常、光の魔法は勇者にはあまり効果はないだろうな。だが」
「だが」
「この神官は例外らしい。1つ有効そうなものがある」
「本当か!?」
すると。
「先ほどから何をぶつぶつ独り言を言っているのですか? 今は戦いの最中。困った人ですね」
見ると、アリアスの剣が再び光を帯びている。
そして、奴は姿を消す。
「シャインブレイド!」
背後から奴の声。
後ろに回り込まれた。
そう理解したときにはもう遅い。
盾で奴の攻撃を受け止められない。
ガン!
盾の結界がアリアスの攻撃を防ぐが。
「はあああああ!」
奴は結界に弾かれない。
アリアスの剣の攻撃と盾の結界が拮抗している。
「これはまずいんじゃ!?」
ひょっとして防御を突破されるかもと思うと、俺の足はすくみあがった。
しかし、アリアスの動きが止まっている今がチャンスだと気づく。
「ベル、今だ! さっき言ってた魔法だ!」
すると盾に描かれた怪物の両目が妖しく光る。そして怪物の口に当たる部分からまばゆい光が放たれて、アリアスを包み込む。
「なんだ!? 力が、抜けていく!?」
そして、アリアスは後方に吹き飛ばされた。
けれど、なんとか立ち上がる。
「おい、なんか大して効いてなさそうだぞ、ベル!」
「まあ黙って見ていろ」
そして、アリアスは剣を再び構えようとするが。
「なに!? 剣が重い!?」
そう言って剣を落としてしまう。
明らかに奴の様子がおかしい。
「何がどうなったんだ、ベル!?」
「使った魔法はシャインボケーション。人間を転職させる魔法だ」
「なんだって!?」
「奴を勇者から村人に転職させた。もう先ほどまでの高い戦闘力はないだろう」
アリアスは戸惑っていた。
「僕に何をしたのです!?」
身に纏った鎧が重く感じるのか、脱ぎながら俺に訊いてくる。村人では勇者の装備には耐えられないのだろう。
「俺はお前を村人にした」
「な!? 村人に!?」
こうして、村人の俺は勇者アリアスに勝った。
神殿を後にしてグリフォンの背に乗る俺と美少女の姿のベル。
俺は有頂天になっていた。
「お前のおかげで勇者に勝てた! 村人の俺がだ。最高の気分だ」
「それは良かったな」
「ところで今、神官のおっさんを吸収したままだけど、吸収って何人まで可能なんだ?」
「同時に吸収できるのは魔物でも人間でも2個体までだ。ちなみに使役できるのは吸収中の個体のみ」
「そっか。じゃあ、このグリフォンと神官のおっさんでもう定員か」
「そうだな」
「じゃあ、新しく他の誰かを吸収したいときはどうすれば?」
「グリフォンか神官のどちらかを解放すれば、他のものを吸収できる。ただ、誰でも何でも吸収できるわけではない。また、意識を失わせて弱らせた状態でないと吸収できない」
その時。
向こうから黒い体に大きな翼を生やしたデーモンがやってくるのが見えた。
「あれは?」
「魔王の部下のようだ。こっちに近づいてくる」
なんだ? 戦いになるのか?
ベルは盾の姿を取った。
だが、そいつは近寄ってくるとこう言った。
「お前だな? 今日、人間どもの神殿を襲い、転職機能を奪ったというのは?」
「そうだが」
「魔王様がお前にお会いしたいと申しておられる」