第10話
まだお互い名乗ってさえいないというのに、パーティを組んでほしい!?
さすがの俺も面食らった。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか? いきなりパーティだって!?」
「はい」
彼女は真っ直ぐに俺を見つめてくる。
「とりあえず道端で立ち話もなんだから、どこか店に入ろうか」
俺たちは近くのレストランに入った。
木造で机も椅子も木製の小さな店だ。
「何を食べる?」
彼女は机の上を見て俺と目を合わせない。
「いえ、あたしは……」
そこで腹の音が突然店内に鳴り響く。
俺のものではない。当然、盾のベルのものでもなく……。
目の前の少女は顔を赤らめる。
「ずいぶんと腹が減ってるらしいな」
幸い、闘技場で稼いだ金があるので、おごってやるくらいはわけがなかった。
俺はシチューを二人分注文した。
「俺はグラン。で、お前、名前はなんて言うんだ?」
「あたしはルラと言います」
「ルラか。で、君の職業は? 見た感じだと魔法使い系の印象だけど」
「一応、召喚士です」
「召喚士か。召喚士ってなれる人が限られてると聞くけど」
ほとんど全ての職業適性がある弟のロルは召喚士の経験もあったが、それは例外的。
魔法職の適性があっても、ほとんどのものは魔法使いか僧侶のどちらかにしかなれないのだ。
「はい、ですが、まだ駆け出しで」
「それでも召喚士なら引く手あまただろう。他にパーティを組みたがる冒険者は山ほどいるはずだと思うんだが、なんで俺とパーティを組みたいなんて言い出したんだ?」
当然の疑問を口にしたら、彼女は口を閉ざしてしまった。
そこにシチューが到着する。
「だいぶ腹が減っているみたいだから、先に食べよう」
「ありがとう……ございます」
ルラはそう言うとまるで何日も食べていなかったかのようにシチューをむさぼった。
その勢いに圧倒されているうちに彼女の皿は空になった。
「お前、ひょっとして食べるあてがないから、パーティを組みたいとか言ってきたんじゃないだろうな?」
それに答えるように、再び彼女の腹の虫が威勢よく鳴いた。
仕方なく俺は彼女のために追加注文した。
「すみません……」
「まあいいけどさ。俺もさっきの闘技場での賞金くらいしか金がないから、あんまりあてにされても困るんだがな」
「……」
「で、話を戻すが、なんで召喚士のお前が俺なんかとパーティを組みたがるんだ? 俺は見ての通り村人だぞ」
すると、彼女は黙って俺の盾を指差した。
「その盾、ですよね?」
ルラの言わんとしていることが分からなくて俺は首をかしげる。
「どういうことだ?」
「村人のあなたがあそこまで戦えるなんて、その盾のおかげですよね?」
彼女が悪いわけではないが、何かその発言にはひっかかるものがあった。
俺が盾がなければ無力なやつという現実を突きつけられたような気がした。
「ああ、この盾の力で俺は勝てた。それが?」
「その盾、ただの盾じゃないですよね? なにかとても恐ろしい力を感じます」
「それと俺とパーティを組みたいことと何の関係が?」
少し苛立ちを感じながらも、平静を装って訊ねる。
だが、彼女はそんな俺の何かを察したのか、意を決したように話し出した。
「あたしは召喚士のくせに触媒がないと何も呼び出すことができないんです。でも、その盾。その盾を触媒にしたなら、すごく強い存在を召喚できるのではと思いました」
それは……!?
盾を触媒にして、強い存在を呼び出す?
この子は一体何を言ってるんだ?
ひょっとしてそれをしたら、ベルの封印を解くことにつながるのだろうか。
そんな考えが俺の頭を一瞬よぎった。
だが、盾は沈黙を守っている。
「じゃあ、俺と組みたいというよりこの盾が目当てってことだよな?」
自分で話しながら、腹立たしさをおぼえる。
結局、俺にはこの盾以外何もないという感覚だ。
「いいえ、それだけではないんです」
「それだけではない?」
「グランさんは闘技場の第2戦で、相手の勇者に召喚魔法をかけられて、その結果負けましたよね?」
さすがに召喚士。俺が弟に負けた理由を見抜いているようだ。
「ああ、そうだが」
「あたしの見たところ、グランさんが召喚されたことで盾による防御が破られたのでしょう。召喚は異世界の対象をこちら側の世界に呼び出すこと。ということは、グランさんは異世界にいたということになりますね」
「そう、なるな」
確かに盾を装備した俺が鉄壁の防御を誇るのは、俺が異世界にいるからだとベルは最初に言っていた。だから、異世界からこちらの世界に召喚されることで盾の結界は効力を失ったと理解できる。
「では、あたしがこうしてグランさんとお話しできているのはどうしてなんでしょうか? それ以前にグランさんの姿を見ることができるのはどうしてなのでしょうか?」
俺は絶句した。