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第1話

 俺はグラン。黒髪に黒い瞳のしがない村人だ。年は17。

 

 本当は冒険者になりたかったが、神殿で転職をしようとしたところ、村人以外の職業の適性がないと言われた。

 俺は勇者になりたかったというのに。


 そんな俺をみんなバカにした。

 村人以外の職業に適性が全くないなど前代未聞だからだ。


 弟が冒険者として旅に出た一方、俺は仕方なくずっと村人として村で過ごすことになったが、諦めきれなかった。


 剣を装備し、冒険者の真似事をしようと1人村を出た。

 そして、近くの洞窟に向かった。


 その結果、俺は今ピンチだ。


 洞窟内で、ゴブリンの群れに追われている。


 とにかく逃げ回っているうちに、行き止まりに追いつめられる。


 だが、よく見ると、その行き止まりには人影が見えた。

 黒いローブに金髪、黄金の瞳を持つ美少女がそこにいた。


「あの?」


 俺が声をかけると彼女は驚愕する。

 

「お前は私が見えるのか?」


「うん、見えるけど」


「声も聞こえるのか。信じられん、お前のような見るからに最底辺の村人に、私が認識できようとは」


 ひどい言われようだ。


「ところで、君はこんなところで何をしてるの?」


「私の名前は邪神ベルドリア。魔王によってここに封印されていて、動くことができない」


 え、邪神? 魔王によって封印?

 彼女はどう見ても邪神には見えなかった。

 そうこうしてるうちにゴブリンたちに追いつかれた。


「まずい」


「案ずるな、お前ならば私を使いこなせるだろう」


 そう言うと彼女は白く光りだした。 

 そして、彼女の姿は見えなくなった。

 代わりに彼女のいたところには、恐ろしい化け物が口を開いている様子が描かれた黒い盾が落ちていた。


「私を使え」


 盾から声がした。

 俺は言われるがまま盾を左手に装備した。

 だが、盾があったからといって、多数のゴブリンに取り囲まれてはどうしようもない。


 ゴブリンたちは俺を包囲すると一斉に攻撃をしかけてきた。

 俺は死を覚悟する。


 だが。


 まるで、俺の周囲に結界が張られているかのようにゴブリンたちは次々に弾きとばされた。


 何がどうなっているか分からないが、これはチャンスとばかりに俺は逃げ出した。


 なんとか洞窟の外まで逃げ延びたところで、盾が白く光った。

 そして、さきほどの美少女が現れる。


「危ないところだったな」


「ああ、君が盾に変身したのか?」


「そうだ、今の私は盾の姿に封印されている。こうして人の姿を取ることはできるが本体はあくまで盾。お前に装備されていなければ動くことはできない」


「そうなのか」


「ところで人間よ、お前、名前はなんというのだ?」


「グランだ。あんたはベル……なんだっけ?」


「ベルドリアだ。だが、ベルで良い。グラン、お前は私の考えが正しければただ者ではない。私を見つけ、こうして装備できていることが何よりの証拠だ」


 ただ者ではないと言われたことが素直に嬉しかった。俺は平凡な村人で一生を終えることになるのだと思っていたからだ。


「グラン、お前は私を装備していればあらゆる攻撃からまぬかれる。毒におかされることもない。なぜなら、盾である私が作り出す結界の内部は異世界だからだ」


「なんだよそれ!? 無敵ってことか!?」


「うむ、その通りだ」


 いきなり無敵だとか言われて正直驚いた。


「グランよ、お前を無敵にする代わりに頼みがある」


「なんだよ?」


「ともに魔王を倒してほしい。私は魔王によってこのような盾に封印されたのだ」


「魔王を倒す!? 俺が!?」


「そうだ、お前と私が力を合わせれば魔王を倒せる。そうすれば私は自由になれる」


「でも、俺はただの村人だし、転職もできないんだ。一生雑魚のままだ」


「私を装備している限り、敵はいない」


「だけどさ、どんな攻撃も防げるとしても攻撃することができないんじゃどうしようもないだろ?」


 そう話しているところに、コボルトが一匹現れた。

 

 彼女はすぐさま盾の姿になる。

 

 コボルトはこん棒で攻撃してきた。

 それを俺は反射的に盾で防ぐ。

 

 盾本体にコボルトの攻撃が届いた瞬間。

 コボルトは激しく後方に吹き飛んだ。

 ただ、結界のようなものに弾かれたのとは違うようだ。

 コボルトはそれから動かない。


「私を装備することでお前の周囲は完全に守られる。だが、それだけではない。敵の攻撃が私本体に当たった場合、それは反射されて敵に跳ね返る」


「そうやって敵に攻撃できるってことか」


「そういうことだ。だからお前は無敵だ」


「なるほど」


 この盾は相当な優れもののようだ。


「では、早速魔王を倒しにいこう」


「いや、ちょっと待ってくれ。魔王がどこにいるか分からないし、飛んででもいかないと難しいんじゃ?」


「空を見ろ」


 言われるまま空を見上げると飛んでいるグリフォンの群れが目に入る。


「あれを捕まえるのだ」


「捕まえるたってどうやって?」


 すると、盾に描かれた怪物の目に当たる部分がチカチカと光りだす。


 グリフォンの群れはそのまま行ってしまったが、一匹戻ってくるとこちらに向かって急降下してくる。


「グリフォンがこっちにくるぞ」


「奴の攻撃を私で受け止めるのだ」


 俺は空中から爪を剥き出しに迫るグリフォンの攻撃を盾で防ぐ。


 グリフォンは攻撃の反射できりもみ状態になって宙を舞うと近くに墜落した。


「あのグリフォンの近くにいけ」


 そして、弱ったグリフォンに近寄ると盾が放った光がグリフォンを包み込んでしまったかと思うと、グリフォンは姿を消した。


「一体、何が起きたんだ?」


「グリフォンを吸収した。一度吸収した魔物は使役できる」


 盾はそう言うと、また光を放ち、グリフォンを吐き出した。

 

「これに乗れ」


 俺はグリフォンの背に乗って大空に飛び立った。


 ベルは魔王の居場所を知っているらしく、その指示通りにグリフォンは飛んだ。

 相当な距離を飛行したところ、眼下に黒く禍々しいオーラに包まれた巨大な城が見えてくる。


「あれが魔王城だ」


 すると、魔王城のほうから小さな影がいくつも飛んでくる。

 それは黒いドラゴンだ。

 魔王城を守っているのだろう。

 

 ベルは再び盾になる。

 ドラゴンたちは近づくと炎を吐いてくるが、盾によってグリフォンごと守られているのか全く熱くなかった。

 そのままドラゴンたちの一団をやり過ごし、一気に魔王城へ降り立とうとしたとき。


 ガン!


 硬い壁にぶつかったような衝撃を受ける。


「なんだ?」


「恐らく魔王城の結界だろう」


 盾による結界と魔王城の結界がぶつかりあったらしい。


「どうやって入るんだ?」


「私本体を城を守る結界とぶつけてみろ」


 盾の指示通りにした。すると、ぶつかったところから魔王城の結界は破け、そのまま俺たちは結界内部に侵入することができた。


「すげえ!」


 つい声が出てしまう。


 地面に降り立ち、グリフォンを盾の中に回収する。

 周りに魔物たちがやってくる。

 ゴブリンのような雑魚ではない。

 ミノタウロスや巨人などでかくて凶悪そうな魔物に取り囲まれる。

 俺は恐怖に震えたが、盾の守りは磐石で、魔物たちの攻撃などもろともしなかった。


 そして、とうとう魔王の城の内部に足を踏み入れる。

 その後、無数の魔物たちの手厚い歓迎を受けながら、城の最奥部の扉の前にたどり着く。


「この扉の向こうに魔王が……!」


「さあ、魔王を倒そう」


 盾はそう言った。


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