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魔術ってやつは恐ろしいわ。特に何をしてくるかわからないってところが怖いのよね。だからアナタには自由に魔術を使わせるなんてことさせてあげない。
私が風魔衆にお願いしたのは、とにかく敵に魔術を使わせないこと。少しでも怪しい挙動をしたら攻撃するように依頼しているわ。
再び動こうとしたため魔術師の手足を縫い付けんがために苦無が飛んだ。しかし刺さろうとする直前に弾かれた。
チッ、エドモンドも使っていた防御魔術か。でもそれも想定内よ。
この場所を中心に数十カ所に配置された風魔衆が苦無、手裏剣、はては現代兵器を駆使して魔術師を追い詰めていた。
どれほどの優れた魔術師であろうと所詮は個人。これが戦いである以上、数の暴力の前に限界ってもんがあるでしょう。さあ、どこまで耐えられるかしら。
防御の魔術を維持しながら、なんらかの動きを見せていた魔術師だったが舌打ちしていた。
フフフ、床の魔方陣を最初に破壊しておいたのは正解だったわね。そういうのを媒体にして魔術を行使するって話はジャミルから聞いてたからね。いやあ、ニップル騎士団の情報は役に立つわ。ここを見つけたのもジャミルだしね。
やがて雨のように降り注ぐ攻撃に対処する一方となり、魔術師はその身に傷を増やしていった。
「罪もない学生たちをその手にかけた報い、うけるがいいわ」
保健室でギシギシするのは罪な気がしなくもないけど、まあいいか。
「こんな……、こんなふざけた奴にこの私が……。東方魔道連四天王である私が!」
「ふざけた奴とは失礼ね。名乗りもしないような怪しい人間にそんな評価されたくないわ」
「名乗りを邪魔したのは貴様だろうが!」
はあ? なに言ってんのかしらこのスットコドッコイ。勝手に私が悪いみたいなこと言わないでくれる? まったくこれだから魔術師は……。
ほら、ジャミル。アンタも魔術師にムカついてんでしょ? なんか言ってやりなさい。
「……たしかに名前は大事だと思うぞ。うむ」
なにわけわかんないこと言ってんのよ。
残念そうな顔をしたジャミルの肩をラカンがなぐさめるように叩いていた。背をいっぱいに伸ばしてやっているしぐさが微笑ましいわ。
まったく、戦闘中だってのに呑気ね。ここは私がしっかりせねば!
敵の魔術師を完全に無力化したのはそれからしばらくたってのことだった。