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私たちは正面玄関口にやってきていた。出入り口のすぐ外には真っ暗な闇が広がっている。左右を見渡してみたんだけど、どこにも抜け道はないように思えた。
うーん、この手のものって昔から疑問があるのよね。もし真ん中が空洞のもの――ストローなんかを突っ込んだら中の空洞はどうなるのかしら。もしなんの影響もうけないのなら、デカい土管をぶっさして中を通って脱出するんだけどね。
「中にいれたもの自体が無事であるかどうか、今の状況ではわからんぞ」
そうね……。とりあえず試してみるか。
私は玄関そばにある傘立てのところにいき、放置されているボロ傘をひとつ掴んだ。
持ち主をうしない、朽ち果てるだけの運命を甘受せし名も無き魔剣よ。今こそがお前の待ち望む輝けるとき――。その力、解き放て!
とりあえずビニール傘を闇の中に突っ込んでみる。まるで固いなにかにぶつかったような感触に侵入を拒まれた。
「なるほど、そもそも侵入を拒むタイプの結界だったか」
余裕こいてんじゃないわよ、ジャック。それだと打つ手なしってことじゃないの! クッ、固いわね。ビクともしないわ。ならば!
『女神流抜刀術――卵かけるご飯の煌き』
自分でも何を言ってるのかわからないけど、とにかく力まかせに傘を突っ込む。
うぉおおおお! 笑いの神よ! 我に力を!
おっ!? 前に進んだ!
――と思ったら傘がひん曲がっていた。
「強力な結界だな。これほどのものは私もお目にかかったことがない」
くっ、マジでか。これでジャックの経験をあまり当てにできなくなったわ。
これは手当たり次第に叩きまくって、空いてる場所を探すしかないかな。
不毛だ……。そもそも抜け穴があるかもわからないってのに無茶すぎるわね。
抜け穴ねえ。
私は自然と足元に目を落とした。そして思いつく。
これって地面の下はどうなってるのかしら?
この結界ってかなり無茶な代物らしいし、地面の底まで囲む余裕がなかったって可能性がある気がする。
これはやってみる価値があるかも! 私の心の奥底で笑いの神も言っている。脱出するのならトンネルを掘るのがお約束であると。私なら鉄条網があったとしてもバイクで飛び越えられると。無免許の私にとても無理な気がするがのるしかないか。
ヘイ! オ前ラ。穴ヲ掘リナ!
ちなみに変な意味じゃないからね!
え? 変な意味ってどういう意味かって? 言わせんな恥ずかしい。
とにかく地面の下を掘って脱出するのよ!
「そんなことわざわざしなくても確かめられる。こっち」
ラカンはそう言うと道案内を始めた。私のテンションは少し下がった。