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上の階にいても外にでられるわけじゃないし、とりあえず一階を目指しましょう。
私の考えに異論はないらしく、ラカンとジャックは黙ってついてきてくれた。
そういえば生徒会長たちはどうしてるかしら。
「もう帰宅して学校にはいなかったはず。携帯は通じない」
むう、合流して戦力増強といきたかったけど、そううまくはいかないか。
それにしても携帯が通じないとか、魔術ってハイカラなものに対応しているのね。
「単純に空間になんらかの干渉をしているのだろうな」
ふーん。でも空間に干渉するとかとんでもない魔術なんじゃないの? そういえばエドモンドもフィールド魔法的なものをつかってたけど、こういうのってすごく大魔術っぽい。こういうことができるのって実はすごいことなんじゃないのかしら。
「たしかにこれほどの大魔術はそうそうお目にかかれん代物だ。大がかりな準備と時間をかけているだろうな。いや……、それだけでは足りぬか。おそらくこの地の地脈を利用してようやく届いた大魔術だろう。どうもこの仏宇野市という場所はかなりの霊場のようだからな」
えー、なんでそんなことになってるのよ。つまりこの場所じゃなきゃこんな面倒な目にはあわないってことよね。引っ越そうかしら。
「大魔術は使われなくても、ダナコが狙われるのには変わりはない」
くっ、相変わらず痛いところを平気で突いてくるよね、ラカン。
たしかにヤツらのことだから引っ越ししても執拗に私を狙うでしょうよ。それなら風魔衆の援護が期待できるここのほうが都合がいいともいえる。
まあ、できるかどうかわからない計画を立てても仕方ない。とりあえず今はこの状況をだかいすることだけを考えましょう。
私は廊下を歩きながら外の風景に目をやった。窓の外は相変わらず真っ暗でなにも見えない。
そういえば学校に閉じ込められる系のゲームの設定ってこんな感じよね。こういうふうに廊下とか歩いてたら窓なんかに――。
顔が浮かんでいた。
ぎゃぁああああ!!
「クックックッ、楽しんでもらえ――」
私は手近に置いてあった消火器にダッシュで駆け寄ると、それをひっつかんで一斉照射した。
「おい! やめろ! 話を聞け!」
なにか聞こえる気がするけど構わないわ。窓を白塗りにしてくれるわ!
私は消火剤を放射し続けながら廊下を走り抜けた。
「これはひどい」
ラカンが消火剤の霧まみれになっていく廊下を見ながらそう呟いた。