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なん……だと……。
まさか世界の闇に潜む秘密結社がこうして目の前に現れるとは。これはのんびりしている場合じゃないわ。急いで帰ってカールハインツ氏に報告よ!
いや……、コイツは今何と言った? 魔術師と敵対するですって?
どういうことよ? 彼らは世界に眠る性遺物を集めるアバンギャルドな集団だったはず。
「性遺物収集を目的とするあなたたちニップル騎士団が、魔術師と敵対しているなんて話初耳だわ」
「ほう、世界の闇に生きる我らのことを知っているとは驚いた。確かに我らは長年世界各地に眠る聖遺物を探し出し保護してきた。いずれ訪れる約束の日のために――神の時代の再来に向けてな」
それは聞き捨てならないわ。その思想は私やカールハインツ氏とは相容れない。
「神の時代はすでに終わったのよ。たとえ人の世が乱れようとも、次に訪れるのは新たなる人の時代。私たちは人間の可能性を信じているの。かならず人々は覚醒し次のステージにのぼっていけるわ」
「なるほど。最近、都市伝説だなんだと面白おかしく盛り上がり、我らのことを嗅ぎまわる輩も多くなったが君もそのひとりか」
失敬な。私はカールハインツ氏とともに真面目に活動しているのよ。
ふん、今のうちせいぜい馬鹿にしていなさい。まだ二人だけの活動だけど、いずれ三人にしてみせるんだから!
……どうしたのラカン? 悪寒が走ったような顔をして。
しっかりしなさいよ、まったく。
「まあいい。我らニップル騎士団が魔術師と敵対しているのは、魔術師もまた聖遺物を手にしようと企むものたちだからだ。もっともやつらに思想などありはしない。あるのは聖遺物が秘めたる力への興味だけなのだ。あいつらは聖遺物を魔術道具の一種としか見ていない。そのような輩に聖遺物を渡すわけにはいかないのだ」
ふむ。魔術師ならありそうな話ね。とくにエドモンドなんかはその筆頭だったんじゃないかしら。
とりあえずニップル騎士団と魔術師が敵対する理由については納得したわ。でもなんでニップル騎士団がうちの学校に現れるのよ。
そのことを質問しようとした刹那――。
突如おとずれる世界が変容するかのような感覚。
ああ、なつかしいわね。この感覚。できれば永遠に感じたくなかったわ。
まあそんな愚痴言ってる場合じゃないか。いよいよ本命がおいでなすったわ。