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一応、念のため話をしてみるか。
「私は魔術師ではないわ。以前、魔術師と戦ったせいで魔術の痕跡を残しているのかもしれないけれどね」
私の言葉を聞いても、相手は油断なく私たちの動きを見据えたままだった。
「その言葉だけを信用するわけにはいかないな。ならばこの場に残った魔力の痕跡はどう説明する。他に魔術師がいるとでもいうのか」
なに!? ここに魔力の痕跡? つまり私たちが気づかない間に、こんな近くまで魔術師の接近を許していたってこと?
やばいわね。平穏な日常が続いていたせいで油断がなかったとはいえない。でもここまで魔術師に好き放題うろつかれるなんて。魔術師に対して劣勢な立場であると改めて認識させられるわ。
というかすでにクリスティーナに好き放題やられていたわね。アイツ自体はとりあえずは敵対していないけど。ふむ……。
「これは戦った魔術師とは別の魔術師のことだけど。以前、この学校で怪談まがいなことをおこした迷惑なヤツがいたの。またソイツの仕業かもしれない」
「ほう、それはなかなか面白い話だ。だが疑問が残る話でもあるな。魔術師などそうそう関われるような連中ではない。魔術師ではないというが、少々関わりすぎではないか? むしろ魔術師でもないほうが異常に感じる」
クッ、なかなか鋭い。私が秘密にしたいことにどんどん近づいてくるわ。これ以上話をしないほうがいい。
チラリとラカンのほうに目をやる。ラカンは私の意をくみ取ったのかすばやく動いた。
魔術師は強敵だ。そして彼らを強敵ならしめているのは恐ろしい術よ。ならばその術を使う前に潰す。それが私たちが出した結論よ。
ラカンが小刀を抜いて男に斬りかかった。その速さは常人にはついていけないスピードである。もちろん魔術を繰り出す暇さえなかっただろう。しかし――。
派手な金属音があたりに鳴り響いた。
私の予想を裏切り相手はラカンの攻撃に剣で応酬してみせたのだ。私たちの驚きが伝わったのか、相手も少し考え込んだ後――。
「待て。どうやら我々はお互い勘違いしていたようだ」
彼は剣をおさめると話を続けた。その言葉は私をおおいに驚かせるものだった。
「私はニップル騎士団の騎士ジャック土門。魔術師と敵対するものだ」