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ハッ! 私はいったい何を……。
気づいたら教室の外はすっかり薄暗くなっていた。
まだ暗くなるには早すぎる時間よ。なんと不可思議な。
まさか……、これがちまたで噂のクラスまとめて異世界転移!
これが異世界。
ついに……、ついに私の努力が実を結ぶ時が来たのね。私はこの第二の人生で今度こそ勝ち組になってみせる!
え? ただ数時間爆睡していただけだって?
何言ってるのよ。私は高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する戦略を練っていただけよ。勝ち組になるためにね!
え? 考え事をし始めたと思ったらすぐに爆睡し始めたから放置しておいた? どうせ役に立たないから?
……なるほど。
今回の敵はやっかいみたいね。まさか眠りの魔術で私を無力化していたとは。
「……」
どうしたの? ラカン。ハッ、まさかこれが有名な魔術師殺しの静寂魔法。早速こちらの魔術を封じてきたのね! でも残念、こっちは最初から魔術は使えないのよ。
次はこっちのターンだわ。いくわよ、ラカン。
私たちはすばやく帰宅準備を整えると教室を後にした。
思うに爆睡する私を放置して帰るのはひどいんじゃないか? クラスのみんな。
帰る途中何気にとなりのクラスに目を移した。すでに明かりは消えているし、こちらも引きあげ済か。
そのまま通り過ぎようとしたんだけど、ゴトリという音に足が止まる。思わずラカンと目が合った。
このまま見なかったことにするわけにもいかないか。
私たちはとなりのクラスを覗いてみる。教室の片隅には演劇で使う小道具類が積み上げられていた。その前にうずくまるひとつの影がある。
物音をたてたのはコイツか。薄暗いのでよくわからないが少なくとも学生服ではない。そういえば演劇のための服装って可能性もあるのか。ひょっとして着替え中だったとか。
失敬失敬。でも明かりくらいつけたほうがいいと思うよ。泥棒かと思ったわ。
そのまま教室を出ていこうとしたんだけど――。
「待て」
暗闇になれてきたということもあり、近づいてきた相手の顔が確認できた。若いけど学生という年齢ではない。見たところ新社会人くらいの歳だわ。
「ここで何を企んでいる、魔術師」
やれやれ、どうやら穏やかな日常が終わるときが来たようね。私のことを魔術師だと認識したってことは、コイツは魔術側の人間ってことよね。
私とラカンは油断なく身構えていた。