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駄目だ! この不利な状況を打開できない。
クッ、笑いの神に余計なエネルギーを消耗させられたのが悔やまれるわ。
このまま乳酸系運動を全力で発揮できるのは……、あと十秒くらいか。それですべてが終わってしまう。
ここは私の身体に僅かに残っているであろうクレアチンリン酸にすべてをかけるしかないか。
ほんの一瞬でもいい。爆発的な勢いを生み出せれば、ゾンビ少女の態勢が崩れて脱出できるかもしれない。
もはやこれ以上考えている時間もない。ゆくぞ!
私は持ち上げるようにして、掴んでいるゾンビ少女の肩に別方向の力を加える。これでコイツがつんのめるような形でバランスを崩してくれれば脱出口が現れる。
しかし私が予想していた以上に、私の身体は疲労していたようだ。もはやゾンビ少女を揺らす程度の力も加えられなかった。
「――南無三」
もはや無酸素運動は続けられない。三頭筋の収縮が徐々に解けていく。同時にゾンビ少女の顎が近づいてきた。
これまでなのか……。
私は思わず目を閉じて最後の瞬間にそなえた。
その時、暴風が過ぎ去った。
――と同時に私の上にあった重さが消える。
私が目を開けるとそこにいたのはラカンだった。その横顔は真剣そのもので、立ち上がろうとしているゾンビ少女を睨みつけている。
ラカン! お前、味方なのか!?
状況から考えるに私のピンチを救ってくれたのはラカンだろう。しかし果たして味方といえるかどうか。
――クッ、意識が遠のく。
この非日常な展開による心の疲労と、限界まで酷使した肉体の疲労は深刻なようだ。
しかし、このまま意識を失うわけにはいかない。
ラカンはたまたまゾンビ少女を攻撃するチャンスだっただけで、私のことは路傍の石程度にしか思っていないかもしれないからだ。場合によってはゾンビ少女を倒すため、私の身体を道具に使わないとも限らない。
意識を失う前に最低限の布石を打っておかねば。
そう……、せめて路傍の石などではなく、自販機の下に落ちている十円硬貨程度の価値が私にはあると認識をあらためてもらわねば。
私は朦朧としながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「油断しないで……。これは前哨戦にすぎないわ……。もしコイツがやられたことをしれば四天王が動き……出……」
それ以上は無理だった。
そのまま意識を失いながら私は失敗に気づかされる。
ラカンは武術家とはいえ女の子だ。ここは四天王よりもセブンシスターズとかオシャレな感じにしておいたほうがよかったかもしれない。
そんな後悔とともに私の意識は完全にフェードアウトした。