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うーん、いったいなんだったのかしらね。
私は人魂がでたあたりを懐中電灯で照らしながら、トリックの種が落ちていないかを確認していた。
燃焼物は落ちていないわ。あるのはぶちまけられたスポーツドリンクの跡だけだった。ああ、もったいない。
「本物だったのかも」
ラカンがそんなことを口にしたけど、それはないわ。
我が門派の最終的かつ不可逆的な幽霊否定論が覆されることがあってはならないのよ。
だいたい仮にアレが本物であったとして、スポーツドリンクをぶちまけられて消えるとか。恥ずかしくて二度と出てこれないと思うわけ。ということは二度と出てこないんなら、これはもうなかったことにしてもいいってことよ。
つまり霊的現象なんてなかったんだわ!
「……強引すぎ」
ふう、どうやら第一の関門は突破したみたいね。まあ、迷探偵ダナコ様にかかればこの程度の謎、謎でもなんでもないわ。
さあ。次にいってみましょう、次。
私たちは裏手から校舎のほうに戻る。前もってカギを外しておいた一階廊下の窓から校舎内へと侵入した。よいこは真似しちゃダメよ。
さて、次は音楽室よ。
なんでも壁に立てかけられた音楽家の肖像画が動いただの、メトロノームが勝手に動き出しただの噂があがっているわ。オーソドックスに誰もいないはずなの音楽室でピアノがなっていたってのもあるわ。
ちょっといろいろやりすぎじゃないかしらねえ、犯人さん。この際、私も肖像画にイタズラ書きでもしてこの騒動に貢献してあげようかな。
そんなこんなで音楽室へ向かっていると、突然ピアノの音が校舎内に鳴り響いた。
おやぁ? おやおや~? いま、ラカンさんビクッとなりましたわよ。
ひょっとしてラカンちゃんはこういうの苦手だったのかしらぁ?
意外よねえ。冷静沈着質実剛健天下無双のなんちゃって忍者ラカンさんがこの程度のことでビビるなんて。ねえ?
なんて調子のっていたら足払いで床に転がされた。
クッ、やるわね。あいかわらず鋭い足払いだわ。でもいつか必ずかわしてみせる。絶対にだ。
そんなやりとりをしつつ、いよいよ音楽室の前までやってきましたよっと。
相変わらず中からピアノの演奏が聞こえている。思いっきり人の気配がするわね。