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とりあえず学校へと侵入しますか。
私は堂々と校門から入っていく。
え? 閉まってないのかって? もちろん閉まってたわよ。
カギはかかってなかったから開けてはいったけどね。まあ、平和な日本の警備なんてこんなもんよ。ザルね、ザル。
学校によってはカギくらいかけてるかもしれないけど、私なら秘密道具でよじ登ればすむ話だし。ああ、パーティーメンバーに盗賊のラカンがいるからカギは問題なかったわね。
「……」
なにやらラカンがジト目になってる気がしないでもないけど、まあジト目がデフォな気もするし無視してレッツゴー。
まずは焼却炉跡地に向かうわよ。昔は自分たちでなんでもかんでも燃やしてたらしいわね。うらやましいわ。私もいろいろ燃やしてみたかったよ。藁人形とか。
そんなことを考えながら学校の裏手に向かう。
むう、真っ暗ね。でもこれは好都合だわ。
なんでも焼却炉跡地には人魂がでるって話だったから、もし本当に火の玉がでるならわかりやすい。
さあ、かかってきなさい! ケッチョンケッチョンにしてあげるわよ。
え? なんでそんなに気合がはいってるんだって?
それはこの学校で起きている謎の怪奇現象が、我が門派にとって許されざる存在だからよ。
そう……、カールハインツ氏より教えを受けている私が、幽霊的な存在を認めるわけにはいかない! すべてはプラズマの仕業だということを証明しなくては!
というわけで私は燃えているのよ。火の玉だけに。
「……」
クッ、なかなかやるじゃない。いずれそのクールな表情を変顔に変えてみせるんだからね、ラカン。
なんてことをしている間に視界になにかがチラつくのがみえた。
「驚いた。本当にでた」
ラカンが全然驚いてなさそうな表情で言った。
まったくこの娘は。場を盛り上げるってことを知らないのかしら。
まあいいわ。とにかく我が門派不倶戴天の敵――心霊現象が現れたようね。
とりあえずこれでも喰らいなさい。
私は人魂のほうに駆け寄りながら、リュックから水筒を取り出す。
どんなトリックだろうと火には違いないわ。だったら消してしまうまでのこと。
事前調査はしておいたからね。水を入れた水筒を用意してきていたのよ。
人魂めがけて水筒の中身をぶちまけた。
「なん……だと……」
私はここで致命的なミスに気づく。
いま私がぶちまけたのは水の入った水筒ではなく、BCAA入りのスポーツドリンクだったからだ。
私の貴重なオヤツが……。
「ゆるさんぞ……、よくも……」
私のとなりには、いつのまに追いついてきたラカンがいた。
激高する私とは裏腹に、あいかわらずテンションは低いようだった。ちょっとさみしい。