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いよいよ二学期の始まりよ。
乙女坂を登る私の足がいくぶん早足になってる気がしなくもない。これはきっと気のせいね。すでにボッチを脱出した私は余裕の塊なんだから。
今の私はドクロ付き眼帯を装着し、さらにその下にゴールデンなカラコンをつけるという二段構えよ。はっきりいって隙はどこにもない。
これでクラスメイトたちにチヤホヤされる二学期デビューは間違いないと思わない?
というわけで、いちいち約束された未来を前に、ウキウキするなんてみっともない真似してられないわよ。
さあて、クラスのヒエラルキーの頂点を堪能してきますか。
ホームルーム前のザワついた時間。
私の周りだけ凍り付いたように静かだわ。
どういうことかしら。もしかしてあまりの強烈なカリスマ性にみんな近づけないとか?
よし、こういう場合はひとり客がはいると次々に客がなだれ込むというし、私から動いてやるとしますか。
というわけで最初のひとりはヤツしかいないだろう。
カモーン! なんちゃって忍者!
ラカンのほうを振り返るとちょうどいい具合に目が合ったわ。
アイツ!?
見ました、奥さん! あの娘、目をそらしやがりましたよ。なんという裏切り!
ラカンはとってつけたように本を取り出すと読書を始めた。
コラー! 裏切者! こっちこいよ。氷結地獄はひんやりしてて気持ちがいいぞう。
チッ! 食いついてこないわね。いまさら「羅生門」なんてひろげても、もう私には通用しないわよ。アンタが羅漢拳の使い手じゃないってことはとっくにわかってんだからね。
しかしいくら待てども、ラカンは読書をやめることなくホームルームが始まってしまった。
クッ! いったいどうなっている!? この夏休みの間に学校は魔境と化してしまっていたのか。
私は授業中に瞑想しながら、現状の把握につとめた。
冷静になって考えてみると、私は少々暴走していたかもしれない。
まあ私もこのところいろんな事件に巻き込まれていたし、自分優先に物事を考えてしまう傾向にあったのよ。失敬失敬。
そうね。考えてみれば殺人事件で被害者もでてたわけだし、みんなまだ心の傷がいえてないのかもしれない。
それにゾンビ事件で知らぬうちに死者となっていた学生もかなりいたはずだし。なんでも生徒会長たちがいろいろ工作に走っていたらしく、表立っての事件にはならなかったらしいわ。
それでも急に学生がいなくなったりしたわけだし、みんなにとってはかなりのショックだっただろう。ちなみに私は特訓でそれどころじゃなかったんだけどね。
しょうがないわね。私も空気を読んであげるとしますか。
私は眼帯をほどくと、続いてゴールデンなカラコンもはずした。
昼休み、クラスがもとの空気に戻っていたような気がした。解せぬ。