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モグモグモグ。
やっぱり朝食は和食にかぎるわね。
ちょっと上品なお膳で用意された食事を堪能しながら、先日の生徒会長たちとの会話を思い出していた。
会長たちは悪魔の攻撃で完全に身動き取れない状況だったらしく、私がどうやってあの悪魔を倒したのか知らなかったそうだ。まあ、見ていたとしても端からは何をやっているのかわからなかっただろうけど。
それで単刀直入に何があったのか聞かれたんだけど、まあ正直に話すわけにはいかないわよね。最近のつきあいから会長のことはわりと信頼してきてるんだけど、こればっかりはねえ。
私の中に眠る秘術については、知る人が知れば私を狙ってくるだろう。場合によっては命さえも。この秘密は万が一にも知られる可能性を潰しておかねばならないのよ。
というわけで会長には適当な話をしておいた。
天災軍師ダナコはその類まれなる洞察力から、あの悪魔が窮地に立たされていることを見破った。まあ、これは事実よね。
そしてダナコは長年鍛え続けた成果を発揮し、あのマヒ状態から立ち上がることに成功したのである。まあ、これも事実みたいなもんね。
しかしダナコは戦うどころかまともに動くことすらできず、悪魔になぶり殺しにされる危機に直面した。この辺りからだんだん脚色がはいってるわ。
ここでダナコはまず圧倒的な美貌をもって、悪魔にたいして会話という切り口をいれることに成功した。これは事実を含んでるわよね。特に圧倒的な美貌のところが。
そして学校で人気者ナンバーワンたる所以――その隙の無いコミュ力で悪魔との会話を引き延ばし続けた。そう……、手遅れとなる運命の時まで。この辺りはちょっと苦しい言い訳だったかもしれないわね。
とりあえず相対性理論でアレがファッとなってうまくいったことにしておいたわ。会長もそれでようやく納得してくれたみたい。
さすが相対性理論、万能だわ。カールハインツ氏に教えてもらっていてほんとよかった。相対性理論を説明しているときのラカンの疑うようなジト目が気になったけど、まあ些細なことね。
とにかく言い訳もうまくいったし、助けられたかたちになった分家の連中も少しは大人しくなったみたい。
フッフッフ、これはどうやら私の時代がきているわね。
ならばいけるところまでいくしかあるまい!
「本当にもう大丈夫なの?」
ラカンがヤル気まんまんの私を前にしてそんなことを口にする。
ここは屋敷の庭。いつも修行につかっていた場所だけど、今日からは運命の場所として記憶されることになるわ、フフフ。
それにしても心なしか元気がないようね、ラカン。私の強さを肌で感じたとみたわ。
そう、私は悪魔との戦いを経て強さの壁を越えたのよ。今日こそ試合に勝って下剋上を成し遂げてみせるわ。
「師匠……、そう呼んで敬うのも今日までになるわ。これからは私が上に――天に立つ」
「敬われた記憶がない」
フン、ああ言えばこう言う。そんな態度をとってられるのも今のうちよ。今後あなたを弟子とするからには、そういうとこビシビシ教育してってやるんだから、覚悟なさい。
さあ、始めるわよ。ダナコ不敗伝説の序曲を――。
このあと滅茶苦茶地面に転がされた。