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うわぁああああ! 肉壁が奪われたぁああああ!
しかもよりによって、耐久力ナンバーワン候補のジゴロあんちゃんが奪われるなんて。
後衛職にとって盾職がいないのはつらいのよ。ゲーム界の常識ね。
まあ、正確には前衛でも後衛でもなく、私は女子学生だけどね、ドヤァ。
なんて考えてる場合じゃない。またラカンにツッコミをいれられてしまう。
「……」
すでに冷たい視線を感じる気がしなくもないけど、気のせい気のせい。
だって私たち全員しびれて地面にキッス状態なのよ。ラカンも例にもれずぶっ倒れてるはず。そんなミノムシ状態のラカンに、私の考えを見抜くなんて高度なスキル使えるわけがない。
いや、そんなことはどうでもいいわ。とにかく今はこの状況をどう打開するのかが大事よ。といってもなんのいいアイデアも浮かばない。
『我も長年封印されたきたおかげで力を失った。このままでは世界に留まることもままならなくなろう。この器は有効活用させてもらうぞ』
なにぃ! こんなに圧倒的なのに力を失っている……だと……。そんなヤツを封印した昔の人しゅごい。
いや、それより今のは聞き捨てならないわ。つまりアイツは人間を乗っ取らなければ消滅するってこと!?
これはチャンスよ、みんな! アイツの邪魔を! 邪魔を……。
全員マヒ状態で動けない……。
ノォオオオオ! せっかくヒントが出たってのに!
ミノムシ状態がかなしい。
いや、諦めてはダメよ、ダナコ! あのトレーニングの日々を思い出すの! 私が長年筋トレに励んできたのはなんのためよ!
それはもちろんお腹の悪魔を退治するためよ! ってダメだコリャ。
じゃなぁーい! 諦めないわよ! アイツは悪魔、私の腹部で自己主張してるのも悪魔。同じ悪魔なら通用するはず!
どうよ! この完璧理論!
世界中婦女子たちよ! 腹部の悪魔に悩む婦女子たちよ! 我に力を!
うぉおおおお! 動け、我が肉体! 今こそ悪魔を殲滅する力を!
「よ、吉田さん……」
生徒会長の信じられないという言葉が耳に入る。
フッ、そうでしょうとも。私だってこんなことやりたくない。でも勝機はここにしかないのよ!
私は両足でしっかり立ち上がると悪魔を睨んだ。
『ほう、あの状態から復活したか。少しは丈夫な身体を持つようだな』
ふん、余裕ぶっていられるのも今のうちよ。無策でとにかく立ち上がっただけだったけど、幸運にも面白いことに気が付いたんだもんね。どうやら夏休みの修行は無駄ではなかったようだわ。