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『さて――、そろそろこの茶番も終わりにしようか』
悪魔を取り囲んでいた風の要塞が、その一言に反応したようにはじけ飛ぶ。
まぢでか……。あの竜巻を一瞬で吹き飛ばしやがりましたよ、あの悪魔。
「馬鹿な……、我ら風魔衆最強といわれる縛鎖陣が……」
おっさんたちは悪魔が発した衝撃に吹き飛ばされまいと踏堪えながら、苦痛の声をあげている。
それにしてもその言葉は聞きたくなかったわ。もはやおっさんたちにもあの悪魔に対抗する術はないということなのね。
「まだまだ! 俺たちはまだ負けちゃいねえ!」
ジゴロあんちゃんがひとり悪魔に向かっていく。その手には電気を帯びたような刀が握られていた。
ジゴロあんちゃん……、もういいのよ。少年漫画が大好きなんだってことは、その技をみて充分にわかったからもうよしなさい。あの悪魔は次元が違いすぎるわ。
『無駄なことを――。そんなに雷が好きなら、好きなだけ食わせてやろう』
悪魔の姿がまるで揺れるように霞む。その代わりに現れた光のスパークが付近に広がっていく。
あれはまるでジゴロあんちゃんの技!? でも規模が違いすぎる。もっとも近くにいたジゴロあんちゃんも簡単に吹き飛ばされてしまった。
『みな吹き飛ぶがいい!』
光のスパークがまるで小さな竜のように荒れ狂い、地面を噛み砕くようにえぐり、屋敷を次々と破壊していく。私たちは竜の餌食にならないよう身を伏せながら、ただ耐えることしかできなかった。
「クソがぁ……」
ジゴロあんちゃんが力なく悪態をついていた。
アンタのしぶとさは大概ね。私は……。いや、ここにいた人たちみんなが直撃は受けてないけど、間接的に浴びた電撃のせいで声をあげられないくらい疲弊してるってのに。
『ほお、雷をあやつれるだけに少しは耐えきれるか。――面白い、どうやらこのなかで性能も一番のようだし、我が器として適当のようだな』
「なめるなあ!」
近づいてくる悪魔に飛びかかったが、ジゴロあんちゃんはその頭を簡単に掴まれた。
『まずは大人しくしてもらおうか』
もがいていたジゴロあんちゃんの身体がビクンと一度大きく跳ねたあと、力なくぶら下がった。
アレは――、イッたか……。