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『……なるほど、これが貴様らの切り札というわけか』
おっ、効いてるか。少し声のトーンが落ちたような気がするわ。
「まだまだこんなもんじゃねえ! お前には悪いがこのまま俺の踏み台になってもらうぜ。……これで誰もが認めざるをえなくなる。俺が風魔衆最強だということをな! せいぜいあがいてみせな。それだけ俺の株があがるってもんだぜ」
おお、ジゴロあんちゃんが帯びるスパークが激しさを増した。そして悪魔を包み込んだ竜巻も破裂するような轟音をたて続ける。
ジゴロあんちゃん……。アンタ、今最高に輝いているわよ、文字通り。そのままやっちゃいなさい!
『……クックック』
悪魔のくぐもったような笑い声が聞こえてきた。
あー、なんか嫌な予感が。
『ハッハッハッハッ! これが最強? この程度の力で!? どうやらこの数百年で術者の質は落ちてしまったようだな。この程度の攻撃、昔は当たり前のように飛び交っていたぞ。もっともそれほどの時代でも、この我を傷つけることのできる術者などいなかったわけだが』
まずい、これは本当に全然効いてなさそう。しかもこれは相当やばい相手のようだわ。
考えろ……。考えるのよ、ダナコ。この状況、いったいどう切り抜ける!?
「……たしかにアナタは人間が到底及ばないほどの化け物のようにみえるわね。でも、不思議だわ。それほどのアナタがどうして数百年間も封じらてしまったのかしら?」
クッ、我ながら危険な賭けだわ。この質問でアイツの怒りをかうかもしれない。
でも……、それでも何かヒントがほしいのよ……。このまったく道筋の見えない状況を打開する手がかりが!?
『……フン、嫌なことを思い出させてくれる。さすがに人間どももかなわぬと悟ったのか、賢しくも魔術師どもをかき集め我を封じる手にでてきた。確かこの国では陰陽師と言うのだったか?』
陰陽師!? そんな天然記念物的な存在、この場にはいないわよ!
いたとしても一人や二人でどうこうできそうにないし、これは……詰んじゃった?
『そういえば貴様か。封じられているときは魔術師かと思ったが、魔術的な痕跡はあるものの魔力はまったく感じぬな』
うお! 奴の興味が私に! しっしっ! あっちのビリビリしてるほうに注目しなさい。
『フム……、どうやらなにか力を持つ術者というわけでもなさそうだ。少しの憂いも立つため、復活したら我が器に利用しようと思っていたが、どうやらそれもただの杞憂だったようだな』
なにぃ! なんと恐ろしいことを!?
というかなんでここ最近、私の周りでは私の身体を目当てにするやつが現れるのよ! いくら私が美人だからといって! いくら私が天才的頭脳明晰清廉潔白系完璧美少女だからといって!
「なんか変なこと考えてる」
ラカン! アンタはアンタで人の考えを読みとるのをやめなさい!