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それにしてもあの黒い雲、間違いなくやばいわね。何故だかわからないんだけど、私の感覚にビンビンと謎の力が伝わってくるの。
そしてその力が徐々に収束していくのがわかる。
「なにか来る」
私の言葉にこの場の全員に緊張が走った。
ん? ひょっとしてこのヤバイ感じを捉えてるのは私だけなのかな? なぜに……。
そんな疑問が浮かんだものの、いまはそれどころじゃないわね。
いつのまにか薄暗い空の一点になにかが形作られていた。力の波動もソイツからビンビン伝わってくる。
やがてその影が上空からゆっくりと舞い降りてきた。
全体的に黒い色彩、蝙蝠を思わせる翼、そして薄気味悪い表情。その姿は悪魔と呼ぶにふさわしい姿だわ。
『ひさしぶりの外の空気はたまらんな』
声というか波動のような意思が伝わってきた。
クッ、やはりあの刀に封じられていたのはコイツなのね。いろいろとやばいことになりそうだわ。主に私の立場的なものとかが。
「貴方はいったい何者なの」
まずは生徒会長が皆が思っているであろう疑問を直球でぶつける。ソイツはこの場に身構えている私たちをひととおり見渡してからゆっくりと答えた。
『我はかつて大陸よりこの島へと渡ってきた悪魔。もっともこの国の人間は我のことを鬼だ鬼だと騒ぎ立てていたがな』
ほうほう、悪魔ですか。名乗らないあたりはフィクション作品のお約束どおり、名前を知られるとまずかったりするのかな。
『わずらわしいから駆除したのだが、余計うるさくたかるようになってな。そのまま戦いの日々が続いたはてにやってきたのが、貴様らのような特殊な力を持つ者どもよ』
あー、これはまずいなあ。間違いなくバトる流れがきちゃってるよ。
今リュックはないから、秘密道具はウエストポーチに入ってる僅かな分だけなのよね。はっきりいって私は戦力外よ。というわけで頑張ってね! 会長たち!
『お前らも我に挑んでくるか?』
お? 問答無用でバトルってわけじゃないのね。これはうまくやりすごせば戦いを回避できるかも。
「戦わないと言ったらお前はどうするんだ?」
おお! あんちゃん意外と冷静じゃないの。そうよ、うまく戦いを回避するのよ。
『別にどうもしない。我は好きなように行動するまで』
よし、私が許す。どこへなりとも立ち去っちゃっておくんなまし。
「それは人間を殺戮してまわるということかしら?」
いかーん! 会長、そっち方向に話を持って行っちゃらめー!
『そうよな。そうなるだろうな。そしてお前たちはこの答えを聞いては黙っておられぬのだろう?』
悪魔がさらに凶悪な表情に変わる。あれは戦う気まんまんですよ。
クッ、最初から戦いを回避することなんて不可能だったってわけね。さんざん人を期待させておいて、チクショー!
ああ、あれは嗤ってるよ。私の心を見透かしているのかしらないけれど、間違いなく嗤ってるね。こんな凶悪な笑顔見たことありませんわ。




