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――人がいない。
ここは学校のすぐ近く。帰宅途中のの生徒を見かけてもおかしくないはず。
なにより住宅街なのだ。ご近所さんが出歩いていてしかるべきだろう。
しかし、人影がどこにもない。それに静かすぎる。
たとえ人がいなくとも生活音くらい聞こえてくるものだ。自動車の走行音や工事現場の騒音やらが、遠くからでも聞こえてきてもおかしくないはず。
――どうなってる!?
私はいつのまにか慎重に足を進めていた。
まあアレだわね。ラカンに嵌められたことで、私も少し神経質になってるだけかもしれない。
まさかこんな明るいうちから怪奇現象もないだろうし。カールハインツ氏も幽霊はプラズマが引き起こす自然現象だと言っていたし問題ない。とにかく帰宅を急ぎましょう。
そういうわけで私はさっさとこの場を立ち去ろうとした。
しかし不思議なもので先ほどまでは静かなことに警戒感が強まっていたというのに、突然聞こえてきた音に緊張が走る。
なんだ? この音は。足音にも聞こえなくはないがなんだか妙だ。
なんだか凄く違和感がある。テンポが違うというかなんというか。
いや、考えるのはあとにしよう。これは危険だ。私の直感がそう言っている。
私はカバンから水筒を取り出すと、残っていたスポーツドリンクを一気に飲み干した。自作のプレワークアウトでアルギニン入りだ。これで私の戦闘力は一時的に向上したぞ!
しかし、こういう場合は危機を回避するのを第一に考えるべきだ。とりあえずこの音を発生させているヤツから少しでも距離をとろう。
私はエアーアホ毛をピンッと伸ばして索敵を開始した。
近い! いつの間にここまでの接近を許したんだ。
敵は右斜め前方――おそらく最初の脇道からこちらへ接近してきている。
――全力後退!
私は当の脇道から目を離さず、そのまま距離をとった。
そしてヤツは現れる。
見間違えるはずもなく、それは我が校のセーラー服だった。私は最悪の展開を想像し恐怖に足がすくむ。
しかし私の心配は杞憂だったようで、その人物の顔には見覚えがなかった。
フー、なんとか不良少女伝説をつくらずにすんだか。
安心したところで件の人物を注視する。
体格は私よりも小さく、さぞや保護欲をくすぐるような少女だっただろう。
過去形なのはその少女は今や目は虚ろで、情けなく開いたままの口からは涎がしたたりおちていたからだ。そして今まさに引きずるような足でこちらへと近づいてきている。
――って全然安心する要素がねぇえええええ! キモイんだよ! ゾンビ少女かよ!
私は再び全力後退にはいる。
しかし洋画もたしなんでいる私には多少の安心感が生まれていた。この手の輩は足が遅いというのがお約束というものだ。
インフラの整った現代日本でならばまず間違いなく逃げ切れる。文明が崩壊した後のボロボロの道でもなければ追い詰められることもないだろう。
思った通り逃げる私とゾンビ少女との距離は開いていく。
――勝った!
私は心の中で勝利宣言をした。しかしそれを嘲り笑うように状況が一転する。