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驚愕で目を見開いた私の視線の先で、古ぼけた箱が木っ端微塵に砕け散る。ついでに中にあった刀までもが見事に叩きおられていた。
「なんだ? 何の変哲もない普通の刀じゃねえか。しかも折れてるし」
今! アンタが折ったのよ! なにしてくれやがりますかコンチクショー!
なんて文句言ってる場合じゃないわね。ここ最近の経験則からいって、どうせろくなことにはならないわ。さっさとこの場を立ち去りましょう。そうしましょう。
私は元来た道を戻ろうとしたけど、悲しいかな腕に繋がった縄がそれを許してくれなかった。
コラー! いいかげん縄をとけー! なにもなかったんだからもういいでしょー!
「専門家じゃないからわからないけど、ありふれた刀のようにしか見えないわね。もっとも価値があるものだったとしても、折れてしまった以上価値は損なわれてしまったと思うけれど」
貴方のせいよと言わんばかりに会長があんちゃんを責める。そして私は会長が優位にたったのを見逃さず、これに乗じて腕の縄を解いてもらうことに成功した。イヤッホーイ!
よし! こんな辛気臭い場所からは速攻でおさらばよ。と思ったけど目の前に続く暗い通路がちょっと怖いわ。こうなったらいつものアイテムを使おう。
さあ、屋敷まで競走よ、ラカン。お家に帰るまでが遠足なんだからね。
「また馬鹿な事を言い始めた」
ジト目になったラカンは微動だにせず。チッ、ならば煽ってやるか。
ヘイ! ワタシのアシにビビったのかい? ニッポンのニンジャとやらもたいしたことナイネー。クヤしかったらオいツいてきてみなヨ! カモーン!
「なんだと小娘! 我らを侮辱しよって!」
ラカンではなくおっさんたちが喰らいついてきた。まあこの際これでもいいか。大事なのはこの場から一刻も早く立ち去ることよ。
私は亀をも凌ぐ速さで暗い通路を進んだ。
うおー、微妙に狭いし、足場が悪いー。でも負けないわよ! これ以上厄介ごとに関わってたまるもんですか!
こうしてなんとか無事地上へとたどり着く。
フー! これでひとまず安心かな。私は牢屋風倉庫から外に出ると一息ついた。
あとから続々と探検隊のメンバーも戻ってくる。
どうやら今回は厄介ごとを無事回避できたみたいね。勝因は判断の速さよ。フフン。
そして空を見上げたら暗雲が立ち込めてましたとさ。
「なんだ! この空は!」
あんちゃんたちをはじめ分家筋のおっさんたちが騒ぎ始めた。会長たちもこの異常事態に警戒している。
まずいわね。このままでは全て私のせいにされそうだわ。ここはごまかさねば!
あー、これはアレよ、アレ! 夏の風物詩ゲリラ豪雨ってやつだわ!
しかし私の発言は見事に無視され、おっさんたちは相変わらず騒ぎ続けている。ラカンの冷たい視線だけが私を無視しないでいてくれた。かなしい。
漫画版「タナカの異世界成り上がり」の第二話が公開されました。
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