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「お堂を調べてみたけれど、特に怪しい点は見当たらなかったわ。これ以外はね」
いや、だからって何でこんなあからさまに怪しいものを、私の目の前まで持ち運んでくるんですか? 生徒会長様。
「おい、どうなってやがるんだ? この箱、どうやっても開かねえぞ」
いやいや、お兄さん。そんなこと私に言われても。
「娘、お主のお目当てはコレで間違いなかろう。これはいったい何だ? いったい何を企んでおる」
おーい、分家筋のおっさんたちがうるさいよーい。
なんだか話が勝手に進んでるし。なんでこうなるの!
てかこんな箱、私が知るわけないでしょう。ましてやこんなボロっちい箱ほしくなんてないわよ。
なんてことを考えながら私が無言で箱を見つめていると――。
『――』
ん? 目の前の箱から例の音が――。
『――我を解放しろ。そこの魔術師』
……。
アーアー。何モ聞コエナイ。
『――おい、聞こえているのだろう? この剣を砕くだけでいいのだ。早くしろ』
聞コエナイ。聞コエナイ。私ハ何モ知ラナイワヨー。
『――すでにこの剣は朽ちかけておる。非力な魔術師でも簡単に砕けよう』
嫌だ嫌だあ。また厄介ごとがふりかかってきたよお。
マズい、マズい、マズい。ここはなんとかこの場をやり過ごさなければ。
剣か……。古そうだし刀とかなんだろうな。そういえばカールハインツ氏が言ってたっけ――。
「戦国時代、英雄と名をはせた豊臣家康に仇をなす妖刀が存在したと聞いたことがあるわ。たしか名前は妖刀『マラムサ』――」
なんというむさくるしい名前だろう。さすが妖刀というだけあるわ。うんうん。
そんなことを考えていたのだが、まわりは何とも言えない空気に変わっていた。
「いろいろ間違ってると思う」
そんなことをのたまったのはラカンさんである。
ハア、しょうがないわね。あなた歴史に詳しくないでしょう。私も苦手だけど、この話は歴史学に詳しい我が師匠から聞いた話なのよ。間違いはないわ。
「へえ、この箱にそんなやばい刀がはいってんのか」
そうそう、だからお兄さんたちはさっさとその箱をお堂にしまってきてね。私は帰るからさ。
よし! これで一件落着。
「こりゃあ、ひと目おがませてもらわねえとな。ちょっとその箱おさえてろよ」
止める間もなく、私をマットに沈めたあんちゃんの電撃パンチがボロボロの箱めがけて放たれた。