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私を深い眠りに追い落とそうとするかのように、心地よい振動が私の身体を揺らした。
窓の外を見れば、緑豊かな景色が移り変わっていく。
今現在、私は生徒会が貸し切ったバスに揺られ、仏宇野市から遠く離れた山奥を進んでいた。
本来であれば豪華客船の上で、大金持ちのイケメンたちとともに世界中の珍味を楽しみながら談笑していたことを考えると空しい……。
一応このバスにもイケメンがいないわけではないが、すでにカップリング済で変態コンビの片割れだったり、生徒会長の愛人だったりなわけで、私の食指が動くはずもない。
とりあえず目的地とやらに到着するまで眠るとしますかね。
――と思ったけどさっきから隣に座るラカンがうるさい。私があげたチョコスナック「ボッキー」をさっきからボリボリ食べ続けている。
やれやれ、ボッチ新卒はこれだから苦労するのよね。周りを気遣う心ってやつを私が教えてあげるとしますか。小動物のように頬を膨らませ、お菓子を食べ続けるラカンを見ながらため息をついた。
変態に囲まれた眠れる美女を実践すること数時間。目的地についたのはちょうど昼食時のことだった。
私は凝り固まった身体をのばしながらバスを出る。私の目に映ったのは、まさに山奥の片田舎といった風情の場所だ。
これはアレね。連続殺人事件がおこって、頭を掻きながらフケをまき散らす名探偵が現れそうな場所だわ。目の前で自己主張している大きな屋敷も、ここで事件がおきますよと言わんばかりである。早くも帰りたくなった。
「それじゃあ一旦解散するわよ。各自実家に戻って昼食をすませたらウチに集合ね」
会長の一声で散り散りとなり去っていくチーム生徒会。
ん? まさか、こいつら全員ここの出身なわけ? まさか自分のまわりを身内で固めていたとは。どうやら生徒会は会長の好き放題やり放題のようね。なんという傍若無人ぶり。
私が会長には逆らうまいと権力に屈していたところ、当の会長からお声がかかる。
「吉田さんはウチで昼食を用意してあるわ。とりあえず客間に案内するからついてきて」
ラカンは無言だったが、こっちこいよという雰囲気を醸し出して歩き始めた。仕方ない。ついていくしかないか。
門をくぐるとそこには広い庭。さらに数々の倉。そして大きな屋敷。まさに大地主って感じの構えね。
屋敷に入るとそこには数名の使用人らしき人たちが待ち構えていた。会長はなにも臆することなく声をかけ、一人の使用人が私を案内しようと荷物を持ってくれた。
クッ、住む世界が違うっていうのがビンビン伝わってくるわ。
私が内心うろたえている間に、会長やラカンはどこかへ行ってしまったようだ。
そして平民の私には場に流される選択肢しかなく、されるがままに客間へゴー。
案内された広い部屋をみてため息をもらした。
「どうやら長い夏休みになりそうね」