49 風間姉妹
これはダナコが両親の豪運を前にして嫉妬全開になる数日前の話。
仏宇野市のとある屋敷――。
風間彩綾香は電話口で声を荒げていた。
「どうしてそんなことに! 彼女は被害者よ! 美柑だって怪我を負わされたっていうのに――」
普段は静けさに包まれているこの屋敷も、いまは彩綾香の声が響き渡っていた。そんな彼女を見守るラカンは一見無表情のようだが、見る人から見れば心配していることがわかる。
他には誰もいない。ここは風間姉妹が学校に通うために使用している屋敷で、二人のほかには家政婦しかいないが今は席を外していた。
しばらくの間やり取りが続いたあと、彩綾香は受話器を置いてため息をついた。
「なにがあったの?」
少し間をおいたあと彩綾香が答えた。
「アイツ、適当な報告をしているみたいよ。そのおかげで今回の件はお咎めなしってことになったらしいわ」
「む、私も報告したのに」
「今回の集まり、どうも分家筋が結託していたみたいなのよ。もしかしたら最初からこうなることを見越してやったのかもしれないわ」
電話をしていたときとは打って変わって、彩綾香は暗い表情になっていた。
「エドモンドの件についても言いがかりをつけてきてるみたいで、本家のほうも相当困っているみたいなのよ。最近、分家たちの増長がひどいわね」
「一番増長してるのはアイツ」
「まあね……」
彩綾香は一旦苦笑したが、言いにくそうに言葉を続けた。
「それで今度の夏休み一度里にもどってくるようにって。たぶん戻ったら分家から根掘り葉掘り聞いてくるはずよ。それと……、吉田さんにも一緒に来てほしいと言われたわ。それで美柑からお願いしてほしいのだけれど」
「それは……、難しい」
妹の言葉にさらに表情が曇る彩綾香。
「困ったわ……。今回みたいな暴走を起こさないためにも、一度きっちり話をつけたほうがいいと思うんだけどね。もし私たちが里にいる間、また彼女に手を出されたら今度は防ぎようがないし……。一緒に行ってもらえば、まだ私たちで守りようがあるんだけど」
「……たぶんお姉ちゃんから説明したほうがうまくいくと思う」
「どういうこと?」
「私じゃうまく説明できない」
彩綾香が苦笑を返す。
「でも貴方たち最近仲がいいでしょ? 美柑から言ったほうがいいんじゃない?」
「生徒会長のお姉ちゃんのほうがうまくいく。ダナコはそういうやつ」
ラカンは確信めいた様子で断言していた。