46
燃え尽きたわ……。
私は神社の境内で仰向けに倒れていた。
私が最後に放った左ストレート。
男は見事にカウンターを合わせてきたの。それもギアをさらに一段階あげたスピードでよ。まさかまだ力を隠していたなんてね。
完敗だわ。なんとか後方に飛んでダメージを逃がしたけど、どうやら私はここまでのようね。これまで私の身に起こっていた謎の奇跡が、急速に失われていくのを感じていた。
なんでわかるのかって?
身体中に激痛が走り始めたのよ!
メチャクチャ痛いの! 身体が悲鳴をあげているのよ!
ああ、無理もないか。原因もわからないまま調子に乗ってはしゃぎすぎたんだわ。あんな人間の限界を超えるような速さで動きまくっていたら、身体にガタがきて当然よね。
失敗した……。真正面から戦うなんて私らしくないことするんじゃなかった。いつものように慎重かつ華麗に卑怯な戦法をとるべきだったわ。
でも後悔先に立たず。もはや普通に動くことすら困難な状態よ。あとはトドメを刺されてジ・エンドか……。
私は青空をぼうっと眺めながら、運命の一撃を待った。
……なかなか最後の一撃がこない。
身体中の痛みから解放されるため、気絶するくらいの一撃を期待してるんですがまだですかねえ。やるなら早くしてほしい。
というか正直いってちょっと眠いんですが。もう痛みを忘れるために寝ちゃっていいですかね。いいですよね?
――と勝手に結論をだし、瞳を閉じて眠ろうとしていたところに影が移りこんだ。
ようやくきたか……。
どんだけ人を待たせるのよ。早くこの痛みから解放してほしい。
期待してそちらに意識を向けるとその人影はラカンだった。ゆっくりと私のほうに近づいてくる。
「大丈夫?」
おいおい、ちびっ娘。これが大丈夫そうに見えるのか?
いや、おちつけ私。痛みがひどいからってラカンに八つ当たりしてどうするのよ。とりあえず聞くことを聞いておこう。
「あの男は?」
「わからない。私が気がついた時にはいなかった」
どうやら見逃されたらしい。私としては立ち去る前に一声かけてほしかったわ。そしたら気なんか遣わず速攻で爆睡していたのに。
まあいい。痛みや眠気を我慢していたおかげで、気づいたことがある。これは当たりかもしれない。
「そう、……今日はもうお開きでいいかしら。疲れちゃったから」
私はなんとか立ち上がると、痛む身体にムチ打ちながら荷物のほうに移動する。
これはキツい。早く帰って一刻も早く横になりたいところだわ。
ラカンは相変わらずの無表情だったが、心なしか心配そうな素振りだ。ひょっとして今回の件を気にしているのだろうか。別にラカンが悪いわけじゃないし、そんなに気を遣わなくてもいいのだけど。
むしろ今回の件は吉事だったと思っている。もし、私の推測が正しいのなら未来に希望が見えてくるから。
とはいえ私の身体はもう限界に近い。私はそのまま自宅へとむけて歩き出した。