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ちょっと落ち着きましょうよ、お兄さん。
――と私は片手を前に出したのだけれど、それをやる気満々だと勘違いしたみたい。
男が私の挙動に反応して大きくバックステップ。かなりの距離をとった。
なんでそんなに警戒するかなあ……。あ、もしかして私が魔術師を倒した話が尾ひれをつけて伝わってるとか? もしそうならそのまま警戒して立ち去ってほしいのに。切実にそう思う。
しかし男は私の気持ちなど微塵も気づかず、俺様フルパワー解放だぜってな感じだわ。だって男からこれまで以上に突風が発生しているし、なによりあのバチバチした光もまわりを派手に舞っているからね。
まったく……、なんでここまでやるかなあ。コッチはアンタの手加減した一撃でも沈むただの女子高生だっての。
とにかく、ここは全力で防御しておいて倒れるしかないわね! それしか私が生き残る道はなさそうだわ。
私は仕方なくラカンから教わった構えをとって、男からの一撃に備えた。
――と思ったら男の姿が消えていた。
全力でくるわけですね。わかります。
私がまったく見えていないと思ってないんだろうなあ。たぶん私の周りを警戒して飛び回ってるんだよね。
なんだかそう考えるとけっこう笑える。でも笑える状況じゃない。
というかめちゃくちゃ怖いのよ! コレ!
まずいなあ、これは本気で危険の命を感じる。
もう恐怖で自分でもなにを言ってるのかわからないようなやばいテンションになってる。これが本当のまずい状況ってヤツなのね。
だって、気づかないうちに私吹き飛んでたんだもの。
やばすぎ……。ようやく痛みを実感してきた。どうやら右わき腹を蹴られて吹き飛んだっぽい。
ああ、やっぱりあの光は電気的なものだったのね。ビリビリきてますわ。おかげであまり痛くないのが不幸中の幸いね。実はアイツ優しいヤツなんじゃないの。
……なんて言えるわけないでしょ!
なに女子高生蹴り飛ばしてんのよ。男女平等主義を掲げる女尊男卑な団体様が、きっとアンタん家に押しかけてくるわよ! 覚えておきなさい!
――という私の強気も空しく、私は地面に転がった。うーん……日に焼けた地面がとても暖かいわ。
「あん? なんだそりゃ。……おいおい、マジか? マジでこの程度なのかよ」
荒れ狂っていた突風がおさまった。
ふう、ようやくわかったか。この私の弱さがな!
「こんなのに助けられたってのかよ。なさけねえ……。なさけなさすぎて笑えてくるぜ!」
なに!? 突然、ビンタをした音の十倍くらいは大きい音が聞こえたわよ。
私はなんとか首を動かして周りを確認した。どうやらあの男は倒れてたラカンに攻撃を加えたらしい。
おい、ちょっとまてい! それはやりすぎだろう。そのちっこいのは一応私の師匠なのよ!
怒りに我を忘れて立ち上がる。
このとき、私は自分の身体に起きている異変に気が付いていなかった。