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暑い……。
私は一旦体術の訓練を中止してジャージの上着を脱いだ。
ちなみにこのジャージは通販で買ったものよ。えんじ色に白線二本のストライプといういわゆるジャージの王様ね。
片隅に置いてあったリュックのところまで行って無造作にそれを置いた。ついでに自作のスペシャルドリンクを取り出して水分補給。ゴキュゴキュゴキュ……、プハー! BCAAが身体に染み込んでいくわ。
ここは学校の近所にある神社の境内。ありがたく私の修行場として活用させてもらっているわ。神主さんに頼んだら「フォッフォッフォッフォ」といってたから多分大丈夫。
カールハインツ氏によると修行と言えば山なのだそうだが、残念ながらここから山は遠い。というわけでちょっと妥協のうえ、緑溢れるこの神社の境内を修行場に選んだというわけ。
はぁ、境内を通り過ぎる風が心地よい。火照った身体を徐々に冷ましてくれるわ。
「もうすっかり夏ね……」
なんだかんだで体術の修行も二か月は続けていた。我ながらやるときはやる女だわ。
でもそろそろ成果を実感したいところね。夏だし北極に涼みにいくときの対策のため、ホッキョクグマを倒せるくらいの必殺技を教えてほしいものだわ。
「休憩長い……」
おっと、私のちっこい師匠がご立腹のようね。少し考え込みすぎてたか。
私は気合を入れなおすと、ナンチャッテ忍者マスターことラカンに教えを乞う。
残念ながらいまだ大した攻撃技は習っていない。基本的に攻撃は掌底による打撃である。拳を握って殴るとケガする可能性があるとのこと。蹴り技も防御がおろそかになるので教えてくれない。クッ、攻撃こそが最大の防御というお約束はどこにいったのよ。
「そんなものはない。護身のためにはこれくらいでちょうどいい」
無表情でありがたいお言葉をおかけになる我が師匠。
今もっとも時間をかけて教わっているのは体捌きね。防御の基本ということで、もう飽きるほど繰り返しているわ。この応用で使う投げ技が、私が習ったもうひとつの攻撃手段よ。
……地味だ。
護身のためとはいえ、攻撃手段が掌底と投げしかないというのはさみしい。
そろそろ分身の術くらい教えてほしいところだわ。
「知らない」
クッ、やっぱりナンチャッテ忍者では高等忍術を教わることはできないのか。
おのれ小娘、さんざん私を期待させておいて。私をだましたのね! もう許さないんだから。命乞いをするなら今のうちよ!
というわけで組み手開始。
小柄な体躯ながら重い攻撃を次々と繰り出してくるラカンに、私は命乞いをしましたとさ。めでたしめでたし。