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もう一人のボッチは教室の中でセンター最後方に位置取りしていた。なかなか幸運値は高いようね。要チェックだわ。
私は怪しまれないようにしながら教室内をうろつく。
お目当てのボッチは自分の席で独り静かに読書にいそしんでいた。
コイツ! 私の勝ち組JK道を実践している!? しかも私より完璧に……。
まず何が凄いかというとオーラが違う。私の「誘ってくれてもよくってよオーラ」とは違う冷たい別次元のオーラ。一言で言うならば「孤高の姫オーラ」。
クッ、これは思ったよりも苦戦するかもしれない。
その証拠に彼女の読んでいる本のタイトルは「羅生門」。
これはヤヴァイ。
内容は忘れたがとにかくこれはやばい。なんといってもまず字ズラがやばい。かなり強そうな雰囲気を醸し出している。多分「羅漢拳」の親戚だ。これは圧倒的強者!
とりあえず我が席へと戦略的撤退をする。席に座り動揺を抑えながら私と彼女の戦力比を考えてみた。
毎日プロテインを飲んで身体を鍛えている私に力負けはないと思うが、やつの本領はなんといっても武術の技にある。正直苦戦するだろう。
だがこちらもウサギ小屋逝きがかかっているのだ。簡単には退けない。かならず貴様の隙をついてみせるぞ、ラカン!(命名ダナコ)
そんな私の断固とした決意とは関係なしに、平穏な時間が過ぎていった。そしてやってきた放課後。
部活動は強制休止となり、試験期間のように皆は帰宅へと向けて動き始めている。そして私もボッチの呪縛から解き放たれるため――学校から脱出するため、ラカンとの戦いに向けて気合をいれていた。
そんな私の目に映ったのは、クラスメイトたちが一緒に帰る集団を形成しているなか、ひとり悠然と教室から出ていこうとするラカンの姿だった。
――なん……だと……
アイツ! 先生様の指示を完全無視して独りフライアウェイしやがりましたよ。
なんてヤツだ。ボッチにあるまじき豪胆さだなラカン。
ハッ! まさか……、ヤツは千年に一度現れるという伝説のスーパーボッチだとでもいうのか……。
クッ、ラカンのことを見誤っていた。まさかこのタイミングで本性をあらわにするとは。
――と、考え込んでいる場合ではないな。
私も急いでラカンを追わなくては……。
――あ、足が動かない。
学校内のヒエラルキーで底辺に位置するボッチ階級の私が、学校側の指示を無視して教室を出ていくなんて難易度が高すぎる。
クソッ! しっかりしろダナコ! ここで臆したら全てが終わるわよ。そのままウサギ小屋エンドへまっしぐらなのよ!
うぉぉぉおおおお! 燃え上がれ中性脂肪! 私に立ち上がる力を!
……よし! いける。ダナコいきまーす!
私は急ぎすぎず着実にクラスメートたちの隙間をぬって脱出をはかった。