39 生徒会
「――厄介なことになったわね」
メールを読み終えた生徒会長――風間彩綾香はスマホをポケットにしまうとため息をついた。
「どうかしたのかい」
野球応援のしおりを作っていた副会長の北風甚内は作業を止め、会長席で困り顔の彩綾香に尋ねた。
「実家に吉田さんのことを相談していたのだけれど――」
さかのぼることゴールデンウイーク明け、渦中のさなかにあったダナコが彩綾香に助力を求めてきたのだ。しかし、彼女にはダナコにすぐ答えを返すことはできなかった。
そもそも彩綾香たち忍者は諜報が主な任務であり、そのための幅広い知識として基本的な魔術の防衛術を持っているにすぎない。その防衛術にしても先人たちが長い年月をかけ、魔術師の秘密を探り続け――、研究し――、完成させた賜物であるのだが、この防衛術はエドモンドに全く通用しなかった。
このレベルの知識でダナコにかけられた魔術を解除することが不可能なことなど一目瞭然の話である。
ちなみにダナコは自分にかけられた魔術が引き起こすであろう災いについて相談しただけにすぎない。当然ながらエドモンドの置き土産についてはダナコの脳内機密事項となっている。
そんなこんながあって彩綾香は悩みぬいたあげく、彼女の実家である風魔衆宗家に話を持ち込んでいたのだ。
「あまり期待はしていなかったのだけれど、やはり私たちでは吉田さんにかけられた魔術はどうしようもないわね」
「まあ、こればっかりは僕らも専門外だし仕方ないさ。ここはもう一方のお願いのほうに力をいれてあげるしかないんじゃない?」
「そうね……」
ダナコが彩綾香に相談した日以降、彼女の妹である美柑がダナコに体術を指南していた。それは護身のためにダナコ自身が望んだことであり、ここ二か月ほど続いている彼女たちの日常でもあった。
「結構筋は良いって聞いたよ。美柑ちゃんも結構乗り気だったし」
「でも教えられるのは基本的な体術までよ。いくら恩があるからといって、部外者の彼女に本格的な風魔流体術を教えるわけにはいかないし……」
「まあね。吉田さんもそこまでは求めてないんじゃない? あとは僕らが彼女を陰から守ってあげればいいさ」
甚内はフォローしていたが、それでも彩綾香の表情は晴れなかった。
「問題はそれだけじゃないのよ……」
ダナコの知らぬところで新たな火種が燃え上がろうとしていた。