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「この世界には、世界たり得るための真理が存在する。我ら魔術師が使う魔術も、この世界の真理から零れ落ちた僅かな知識をもとに奇跡を体現しているのだ。いや、魔術師だけではないな。お前たちが秘匿する忍術もそうなのだろう? 古今東西あらゆる技術が同様に世界の真理――神の法を祖とするものだ」
なんかエドモンドが語りだしたわ。いいぞー、もっとやれー。時間を忘れろー。
「もし世界の真理を我が物とできれば、あらゆる奇跡を体現できよう。ならばこそ私はこの真理を求めた。そのためにあらゆる秘術に手を出し知識を学んだ」
ほうほう。簡単に魔術を学んだというけれど、私にはどうやって学ぶのかすらわからないよ。教科書とかもらえませんかねえ。
「しかし、世界の真理を知るどころか、魔術の深淵を覗くことにすら膨大な時間を必要とした。このままでは真理に届かぬと悟ったよ。だからまずは死を克服することから始めた。それからはひたすら死について研究したよ。私が死霊術で名をはせたのはこの影響だな。いつの間にか東方魔道連四天王に祭り上げられるまでになったが、真理どころか死の克服にすら手が届かず、私は渇きがおさまることはなかった」
なるほどねえ。とりあえず毎日二リットルくらい水を飲めばいいと思うよ。一流のトレーニーはいっぱい水飲むからね。
「どれだけの国を渡り、どれだけの時間を死の研究に費やしてきたことか。そしてこの街にたどり着き、ようやく研究が日の目を見た。死を克服する方法に気づいたのだ」
エドモンドがニヤリと笑みを浮かべた。笑うのはいいんですが、なんでそこで私を見るんですかねえ。嫌な予感がプンプンなんですが。
「残念ながら肉体の老化を止める方法は見つけられなかった。ならば若い肉体を得られればよい。君もそう思わんかな」
ぎゃぁああああ! やめろ! こっちくんな!
「私はさらに実験を重ね、新しい身体に魂を移す術式を完成させた。君らが相手にしていたゾンビは、実験の過程で生まれた死体がもとになったものだ。死体はそのままだと邪魔だったからね。新しい実験材料を手に入れるのにも利用できて一石二鳥だったよ」
「なんてことを……」
会長が悲壮な声をあげていた。そんなことより目の前にせまっているこの男をどうにかしてぇええええ!
やばい! このままではダナコちゃんオワル!
ちくしょぉおおお! こんな最期なんてあってたまるか!
私の身体は私のものよ。百歩譲ってイケメンで大金持ちで心が水洗便所のようにきれいな私の未来の王子様のものなのよ!
……ん? まてよ。
よくよく考えるとアンタいま若いじゃん。たしか最近身体手に入れたって言ってたよね? それならもう実験やらなくてもいいじゃない。そうよね? そうだと言って!
「私は死を克服した。しかし吉事はそれだけではなかった。偶然にも私は見つけてしまったのだよ。世界の真理に触れる方法を!」
嫌だぁああああ! 聞きたくない!
私にとって絶対良くない内容よ!
コイツの顔がそう物語っている!
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まだ読んでないかたはぜひご覧になってください。