30
今の私にできることは、スリングショットで遠距離から嫌がらせをするくらいなものね。攻撃はまったく通用しないだろうけど、そうなればアイツも防御のために魔術を使わざるをえない。これで時間稼ぎくらいにはなる。
でもポケットに忍ばせているスリングショットの弾は残りあとわずか。とてもじゃないけど校舎内に逃げ込むまでは持たないわ。
もし弾がつきればアイツは遠慮なく間合いをつめて、魔術で私を無力化するだろう。
これだけではだめだわ。さらに策を考えなければ。
他にアイツを牽制できる手段は……。
「いいかげん諦めたらどうだ? もはやお前の未来は私の手中にある」
そう簡単に諦められるかっての!
私は覚悟を決めるとスリングショットを発射しながら走り始める。校舎への出入り口に向けて。
エドモンドにもわかっているのだろう。そうはさせじと移動して逃げ道を塞ごうとする。しかし防御の詠唱にも集中しなければならないため足が遅い。
ここまでは想定どおり。
そしてすぐに弾が尽きる。しかしそれをヤツに悟られたくはない。
さも作戦を変えたの如く振る舞うのよダナコ。
私は立ち止まるとスリングショットを腰に差し、素早くリュックから別の道具を取り出す。もはや私が取れる策はこれしかない。
私が手にしたのは懐中電灯。よりカッコよく呼ぶならばフラッシュライト。
ハイモードにしてエドモンドの顔面に向けて照射する。良い子は決して真似しちゃ駄目だからね。
ともかくこのフラッシュライトはかなり強力よ。まともに直視していたら、それほどの時間もたたずに視力が失われるほどだからね。
まさかこんな使い方をすることになるとは思ってなかったわ。ゾンビから逃れるために、最悪下水道への逃走も考えて用意していたのだけれど、持ってきててよかった。
どうだエドモンド! 敵が見えないというのは恐ろしいだろう?
私がいつスリングショットで攻撃してくるかわかるまい。もう弾はないけど。
でもお前はそれを知らない。防御するために魔術を行使し続けなければなるまい。
これこそが最良にして最後の我が秘策!
私は校舎内に逃げ込むため、エドモンドにライトを当てながら再度走り出す。
これで勝ったと思うなよ、エドモンド!
これはただの逃走にあらず。次の勝利のための戦略的撤退なのよ!
すぐに戻ってきてアンタをケッチョンケッチョンに――。
突然の爆発。
それは私が目指していた校舎への出入り口の方向からだった。
前方から突然押し寄せてきた衝撃に私は吹き飛ばされていた。