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マズい。マズい。マズい。
これは本気でヤヴァイ。
なにが不味いかって、使われている魔術の正体をあばいたからって、それに対処できるとは限らないってところよ。
そして今の私にとってこれはどうしようもないわ。神経への干渉なんてされたら打つ手なんてないわよ。
まず間違いなく動けなくされるだろうし、その後のことを考えると恐ろしすぎるわ。
感覚まで操られてしまったら拷問だって思いのままなのよ。実際、会長たちは高重力に苦しんでいるし。
魔術の正体を隠すためにそうしてたんだろうけど、これが相手を痛めつける目的に変わったとき、その先は想像したくないわね。
はっきりいって重力操作より神経干渉のほうが応用がきくし危険でしょ。これはオワタ。私オワタ。
……いいえ、弱気になってわダメよ、ダナコ。
落ち着いて考えるのよ。
私の武器はカールハインツ氏から受け継がれた知略なのだから。
そうね……、アイツは重力操作を装っていた。裏を返せば装う必要があったということ。
そこにアイツの弱点があるはず。
重力操作が神経干渉に勝る点は対象が限定されない点ね。神経干渉は生物にしか有効じゃないわ。
つまりアイツは非生物に警戒している。
例えば遠距離攻撃。私やラカンがやったけど、アイツは他の魔術でカバーしてきた。
飛んできた刃物や弾には神経干渉なんて意味ないから当然よね。
でも私たちの攻撃はすべて撃ち落されてしまったうえ、今現在私は追い込まれている。
それならアイツが警戒していたのは私ではなく会長たち?
チーム生徒会が一丸となって遠距離攻撃すれば、あの防御では耐えられなかったということかしら。
だからこそゾンビの群れで自分の元に手繰り寄せた。神経干渉の間合いに入って来させるために。
いっそもっと狭い教室で待ち構えていればよかった気もするけど……、だめかな。物がたくさんあって視界が悪いし、物が多いってことはそれは自分を倒すのに有効な武器が増えることも意味する。極端な話重い本棚が倒れてきただけで、アイツは押しつぶされてジ・エンドね。
アイツにとってこの広い空間は都合がよかったってことかな。全員を一度に仕留められれば魔術の正体を知られることもないし。
となると……。
アレ? 魔術の正体を知ってしまった私って不味くない。
なんてこと! やばい状況をどうにか打開しようと考えてみたら、もっとやばい状況なことに気が付いたわ。
アイツ、絶対私を逃すつもりはない!
私とラカンに放った初撃の爆発も、うまい具合に出入り口を塞いでいるし間違いない。
クッ、アイツの手のひらの上で踊らされていたってことか……、認めたくはないけれど知略でも上をいかれた。
残された手はアイツの間合いを迂回して校舎内へ逃げ込むしかない。そして校舎から脱出するのよ。
外に脱出できれば会長たちが集めた人がたくさんいる。アイツの嫌う物量で攻めればまだ勝機はあるわ。
黒いローブを深くかぶっているため、いまいち表情がつかめないエドモンドを前にして、私はスリングショットを構えたまま隙を伺うのだった。
漫画版「タナカの異世界成り上がり」の連載が開始されました。
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