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ラカンの食事はすぐに終わり、少しの間まったりとした時間を過ごす。
私は今後の予定を考えていた。明日からいよいよゴールデンウイーク。これは都合がいいのかもしれないわね。
この時間を使って、ラカンに筋肉とはなんたるかを教え込むのもいいだろう。そして生徒会長とも距離を縮められれば……、デュフフフ。
こんな感じで私たち二人は階段に座ったまま、昼食後の気怠い空気を満喫していたのだが、不意に辺りの空気が変わる。
それは忘れもしない、あの忌まわしき気配でこのあたり一帯を包み込んでいた。
ラカンが素早く立ち上がり警戒する。
さすが私のゾンビ撃退アイテム。たよりになるわ。
「まずい……、逃げ道を塞がれている」
右を見る。旧校舎の影から現れる複数の学生ゾンビ。
左を見る。同じく旧校舎の影から学生ゾンビ。
前を見る。繁みのなかから続々と現れる学生ゾンビ。
完全に囲まれてしまった。
強行突破もできなくはないが、無傷とはいかないだろう。そして相手はゾンビなだけに、その傷が致命傷になりかねない。そうなるのは避けたい。
ならば逃げ道は――。
「ラカン! 上にいくわよ!」
私たちは椅子代わりにしていた非常階段を駆け上がった。
すぐに二階の扉の前に到着する。しかし扉は固く閉ざされていた。
さらに三階へと駆け上がる。旧校舎は三階建て。ここが閉まっていたら絶望的である。
幸運なことに三階の扉は鍵がかかっていなかった。
これで旧校舎へ避難できる!
――とでも言うとでも思ったか! ヴァカめ!
「とまりなさい! ラカン!」
私は旧校舎の中へ駈け込もうとするラカンを止めた。
カールハインツ氏から逃走の心得を学んだことのある私に、この程度の罠は通用しない。
そう、これは明らかに罠。私たちが食事を始めてから、ヤツらが襲い掛かってくるまでの時間がかかりすぎているわ。
そして逃げ道は塞がれたにもかかわらず、旧校舎三階への扉だけがご丁寧に開けられていた。あきらかに旧校舎になにか仕掛けている。
学生ゾンビたちもゆっくりと階段をあがってきてるみたいだし、ちょっとあからさまじゃないかしら。まあワチャワチャモードでは階段上りづらいのかもしれないけど。
それにしても舞台が旧校舎とか明らかに怪しいでしょ! もっと漫画やラノベから学びなさいといいたい。
しかし、私的にはあのちょっと頭の足りないゾンビたちが、このような手を使ってきたことに違和感を覚えていた。
いや、今はいいか。まずはこの危機を乗り越えないとね。
私はリュックから秘密道具を取り出す。
最初に取り出したのはゴムチューブ。前もって片方にフックを取り付けてある。
この旧校舎の非常階段は鉄骨式なので、ゴムチューブを通す箇所はいくつも目に付く。
まずはフックのついてないほうを手すりに結びつける。ここはバケットヒッチにしておくか。
そしてゴムを思いっきり伸ばすようにして、鉄骨のいろんな箇所にゴムチューブを通し編み目をつくり、最後に思いっきりひっぱってフックをかける。
ここでようやくゾンビたちが現れた。粗雑なものだが頭の足りないゾンビには通り抜けられまい。
次に前回垣根を乗り越えるために使ったロープを取り出し、同じように編み目をつくっていく。ゴムチューブの結界すら抜けられないでいるようだが念のためだ。
こうして乙女二重結界を張り終えた私はようやく一息つくのだった。