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新しい朝がきた。希望があるかはわからないがボッチの朝だ。
私は朝食がわりのプロテインを一気に飲んで登校の準備をする。……ゲプゥ~。
登校中は真新しいイベントも起こらず、いつのまにやら乙女坂を登っている自分に気が付いた。
さてと……、今日も戦いが始まるのか。
しかし戦況はかなり悪いといっていい。とりあえず勝ち組JK伝説は置いておくとして、ボッチからの脱出を第一に考えよう。せめて大型連休前にとっかかりだけでも掴みたいところね。
下駄箱――いやがらせのゴミなし!
椅子――画鋲なし!
机の中――カビの生えたパンなし!
どうやらボッチ脱出への道は閉ざされていないらしい。奇襲攻撃がなかったことにホッとしているとクラスメートたちの会話が耳に入った。
「――嘘だろ。こんな時期に転校生なんて」
「本当だって! 職員室で先生たちが話してるのを聞いたんだよ。間違いない!」
どうやら季節外れの転校生らしい。お約束であれば朝のホームルームでお披露目となるわけか。
なるほど。この後の展開は読めた!
ホームルーム――イケメンと私は互いの目線がふれあうことになるというわけだな。そのまま目線を外すことができず、私たちは運命というものがこの世に存在することを知るのだろう、デュッヒュッフフ。
どうやら私の運もまだ残ってたらしい。期待と興奮を隠しながら時が満ちるのを待った。
そして我が人生リスタートとなるホームルームが始まり――。
なにも起こらなかった……。
どうやら転校生はとなりのクラスだったらしい。ガッデム! なぜだ神よ! 私の信心が足りないとでもいうのか!
クッ、落ち着け私。完全に自分を見失っているわよ。一旦、勝ち組JKへの野望は忘れることにしたでしょ!
フーッ、フッー! びー、クール。びー、コゥール。
よし、巻き舌に成功した。とりあえず冷静になって考えてみましょう。
幸いにも私には先人たちの有難い教えがあるわ。
そう、改めて考えてみると、この時期の転校生というのは特別な存在だった。たしか高確率でイケメン超能力者だったはず。そのまま怪しいクラブ活動に誘えば万事OKよね。
しかし、現実には転校生は女の子だったらしい。しかもメチャクチャ可愛いとな!? 私のライバルかよ! いろいろと間違ってるぞオイ!!
いや、落ち着け私。
もしも私が世界の中心でないとしたら、そもそもこんな特徴的なイベントはおきていないはずよ。つまり、まだ神は私を見放してはいない。
そして現実はイケメンではなく美少女。おそらく超能力者でもないだろう。
この事象のズレから導き出せる答えとは……。
――完全に遊ばれている。
どうやら今回の敗北は恋愛の神ではなく、笑いの神を守護神にもつ私の運命としかいいようがないようね。そもそもなんで私は笑いの神なんて信仰してるんだろう。そろそろ改宗を考えるべきなのかもしれない。
まあいいわ、とりあえずすべての謎はとけた。
すっきりした私はいつもの退屈な学校生活を適当にやりすごすとしますか。
いや、やりすごしてどうする。ボッチ生活から脱出するんだろ私!
そんなツッコミもむなしく、今はすでに放課後である。
私はトボトボと乙女坂を下っていた。
「……今日の勝負は五分五分といったところね」
五分どころか進捗状況はゼロパーセントだけどね! せめて強がりくらいしておきたい年頃なのよ!
こうして私はひとり寂しく帰宅した。
そして代わり映えのしないプライベートタイムを満喫する。
「科学の発達というのは目覚しいものね……」
通販サイトで目にした加圧シャツのことが頭から離れないまま床に就いていた。
この日、どこかで惨殺事件が起こり、我が校の生徒が犠牲になったことを次の日の臨時朝礼で知った。