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『あり得ない! 確かにお前に超能力はなかった! お前はただの人間だ!』
そう、私にアンタたちのような超能力はない。でもただの人間ってわけじゃないわ。
迷惑にも望まない力をなすりつけられたのよ。悪魔さえも称賛するやっかいな力をね。
『なに……、悪魔……だと』
エドモンドと違って、アンタならこのままでも存在し続ける可能性がある。トドメを刺させてもらうわ。
恨むんなら私にこんな力を与えた頭のおかしい魔術師と、無駄に知識を与えた変わり者の悪魔にしてよね。
『魔術師が与えた? 悪魔が与えた!? なにを言っている! なんなんだ、お前は!』
お腹が空いたこの気持ちを手のひらに込め! 今こそ必殺の!
『覇王滅殺! くぁ~むぇ~か~め――』
『何をするつもりだ!? 私は最強の超能力者なんだぞ! 私こそが――』
『波ぁああああああああ!!』
拘束していた精神が私の欲望に押しつぶされていく。
思い知ったか。長らく茶番に付き合わされて、お腹が空いてしまった乙女の悲しみを!
『やめろぉおおおお!』
これでお別れよ。はぁああああ!
気泡緩衝材を潰したような感触がして、ヤツの精神が霧散した。なぜ人はプチプチを潰さずにはおられないのか。人の業とは罪深きものよ。ぐーぐー。
はっ!? 私はいったい何を……。
そういえば豪華なご馳走をお腹いっぱい食べてたような気が。とりあえずお爺ちゃんとクリスティーナにおごってもらおう。
「気が付いたとたんに言うセリフかしら。貴方という人間がよくわからなくなってきたわ」
お? やっぱり無事だったのか、クリスティーナ。一応息してるのは確認してたけどよかったわね。
「まあね。それより貴方何したのよ?」
何って何よ。私はちょっくら睡眠をとってただけでしょ。
そんな私の適当な言い訳に、半目になったクリスティーナがあっち見ろと指さした。
そこにはお爺ちゃんたちが倒れた一人の男を取り囲むようにしている。
『精神が崩壊しかけておる。こうなってはもう力も使えまい……』
お爺ちゃんが抱えている男は虚ろな目で『ごはん……、ごはん……』とただ力なく呟き続けている。
私はとりあえず現実から目をそらしておいた。