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やはりね……。
油断したところを襲ってくると思ったわ。予想通りよ。
予想通りといったら予想通りよ。
というわけでさっさと準備にはいろう。前回のような失敗はしないわ。
早速索敵モード!
場所は前回と同じく住宅街。見晴らしは決して良いとは言えないわ。手早くチェックしたところ目視できる範囲に敵は見つからない。
ふん、どうせ前回のように脇道とかから現れるんでしょ。
私は数センチ先で落ちた針の音さえひろう耳を活かして敵を探す。
「……あっちから来る」
明後日の方向を向いていたラカンがそう呟いた。でかしたラカン!
「ラカン! ついてきなさい!」
私はラカンが指摘した方向と逆のほうへ全力疾走する。目的は逃げることではない。
勝負とは戦う前に決着がつくものだわ。そのためにも布陣は大事なのよ。
接敵時間を稼ぎながら戦う場所を探す。
――ここだ!
私はいかにも小金持ちが住んでいそうな大きな屋敷に白羽の矢をたてる。
そしてウエストポーチに小分けしていた秘密道具のなかからロープを取り出す。先端にはフックが装着済だ。かさばらない程度の細さしかないロープだが私の体重くらいは優に支えてくれる。
高さ三メートルほどの垣根の向こうにそれを投げ込むと、手早く引き戻す。
よし! 引っ掛かった。日頃鍛えている我が身体能力を見せてあげるわ。
私は垣根の上へ難なくよじ登った。よし! 次はラカンだ。カモーン。
――と思ったら驚いたことに、ラカンはロープの補助なしにすでに垣根の上に到着していた。コイツ……一体何者!? 羅漢拳の使い手ですよね、わかります。
とりあえず立ち上がると見晴らしのいいこの場所で周りの状況を確認する。
少し離れたところからワチャワチャとやってくるゾンビ青年がみえた。またもや我が校の生徒か。なにか意味があるのか?
そんなことを考えていると私たちの下までやってきた。私はリュックから取り出した折り畳み式スコップを構える。
さあ、どうくる?
ゾンビ青年はワチャワチャとした動きのまま垣根にあがろうとジャンプする。
……が、届かず墜落。何度も繰り返すがあえなく墜落。
やはりな。
コイツら、所詮は人間の域を出ない身体能力しかない。それに頭のほうも少々足りてないらしい。無駄なあがきを延々と続けている。
いい気味ね。この情けない様子をみれば多少は前回の鬱憤も晴れるってもんだわ。
そんなことを考えていると隣から目線を感じた。
……どうするの?
ラカンの視線がそう言っているように感じた。まあ、たしかにずっとこのままってのはなんだかアホっぽいわね。
私は決着をつけるべくカッコよく飛び降りた。垣根の内側に。
「……どうするの?」
「シッ!」
ラカンの質問を黙らせるとじっと外の様子をうかがう。ほんのしばらくワチャワチャが続いていたが、そのうち足音が遠ざかっていった。
さあ、どうくるのか。屋敷の門は閉まっていたはずだ。アイツにあれを開ける知能があるかどうか。
しばらく待ってみるがなにも起こらない。私はフック付きロープを拾うともう一度垣根の上にあがってみる。
立ち上がって周りを確認すると、少し先にいた買い物帰りらしきおばちゃんと目があった。
「……」
やばい。ちょっとはずかしい。