16
「――私もわからないことだらけよ」
「……」
よし! 話を切り上げよう。ラカンとは意思の疎通ができないとみた。
ヤレヤレ、しょうがない娘ね。ここまでダメな娘とは思わなかったわ。しかしこれだけはやっておかねばならないだろう。
「ところで今、学校から集団下校するように指示が出ているわよね。一緒に下校することを提案したいのだけれど」
「……わかった。問題ない」
フーッ、どうやらこの件については話が通じたようね。まあ、考えてみればこの娘もボッチなのだ。断る理由なんてないのか。
クックックッ、これでようやくウサギ小屋の呪縛から解き放たれたわね。
「ありがとう、私の用件はこれでおわりよ。アナタはまだなにかある?」
「……いい。なにかあれば帰りに聞く」
よし! ゾンビ関連の情報は得られなかったが、出来は上々だろう。
長いようで短い戦いだったな。これからはなにかあればラカンにくっついておけばよい。それでボッチ生活ともおさらばだ。
もはや保護者面談でおなじみの「ダナコちゃんは協調性が足りなくて~」なんて枕詞からも卒業よ。
私はご機嫌な気分で教室へと戻った。
ひさしぶりに落ち着いた学校生活がおくれるなあ。早速まじめに教科書を読んでるふりを整えると瞑想にはいる。
よくよく考えてみると、これで対ゾンビ用決戦アイテム「ラカン」を手に入れたといってもよい。まさに一石二鳥だったわ。
フフフ、どうやら幸運期にはいったようね。これはこのまま勝ち組JKに成り上がる展開もありうる!
私は最高にハイな気分で爆睡した。
そして放課後。
しっかり英気をやしなった私はいざ戦場へと向かう。まあ、ただ下校するだけなのだが。
私はラカンを引き連れて乙女坂を下る。
「ところでラカンはアイツらへの対策は万全よね?」
「……ラカンって私のこと?」
そういえばラカンの名前知らなかったわ。気まずい雰囲気が続いた。
「私は美柑。風間美柑」
ナイスだラカン! ちゃんと空気を読んでくれたか。
それにしても風間? まさか……。
「生徒会長とは……」
「私の姉」
やはりそうか。どうりで美少女属性を持っていたわけだ。まさか姉妹だったとは。
いずれ学園ナンバーワンへ上り詰める私の前に、姉妹で立ちふさがってくるのか。
ゾンビ事件がなければ、今この場で決着をつけてやるものを。
なんてことは置いておいて。
「わかったわ。それでアイツらへの対策はあるのよね? ラカン」
「……」
ヤレヤレ、なんにも考えてなかったのか。この脳筋武術家め。前回、力押しでいけたからって、次もうまくいくなんて考え甘いわよ。
まあいいわ。敵も学習能力があればここで襲ってくることはないでしょう。敵の戦力を分散させるのは常道。つまり次にやつらが襲ってくるのは私が一人でいる登校時間。間違いない!
私がそう推理したと同時に、世界の空気が一変した。