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このいたたまれない空気に我慢できず、私は適当な席に腰を落ち着けた、ドスンっと。
そんじゃあ、姉ちゃん。カツどん一丁、お願いね!
案内してくれた美人のお姉さんに明るく注文してみた。以外にもお姉さんは僅かに微笑む(暗黒)と座敷を後にした(震え声)。まったく動じた様子がなかったわね。さすがプロ、なかなかやるわ。
ラカンが何も見なかったように、無表情な様子で私の隣にちょこんと腰をおろした。
アンタ、小刻みにプルプル震えるのをやめなさい。笑うのを我慢してるのがまるわかりだっての。それからクリスティーナ! アンタも遠慮なく笑うのやめなさい!
私の心理的先制攻撃に思考停止していた風間会長が再起動した。
「クリスティーナさん……でしたね。私たち風魔衆に関わるお話と聞きましたが、早速その内容を聞かせてもらえますか」
「ええ、もちろんよ。風間彩綾香さん」
コイツら……、いちいち相手にプレッシャーを与えながら話をしてやがりますよ。もっと普通に会話できないもんかねえ。
私は早くもやってきたカツどんを食べながら事の推移を見守っていた。モグモグ。
端的にいうとクリスティーナは風魔衆との同盟を申し出ているみたい。そもそもエドモンド藤鬼が風魔に敵対したのは彼個人の問題であり、その後に手をだしたアレキサンダー勘解由小路も個人的に動いただけだというのが彼女の言い分よ。
ところでアレキサンダー勘解由小路って誰? そんな長ったらしい名前のヤツ、覚えられないことを覚えていそうだけど記憶にないわ。
え? 学校を襲撃したやつ? そ、そう。大物感あふれる名前なだけになんだか空しいわね。それにしてもこのカツどん最高だわ。豚肉とサクサクころもの奏でるハーモニーがさらなる食欲を誘ってくるの。モグモグ。
とにかく東方魔道連という組織として、風魔に敵対する意思はなかったんだと。それで今後は協力していきたいというのが彼女の考えらしい。
私個人としては、これ以上魔術師がちょっかいを出してこないってんなら歓迎だけれど、風魔衆はどうなのかしら。
風間会長の様子をみるに表情は厳しい。まあ、これまでにいろいろあったしね。魔術師と仲の悪いニップル騎士団との関係もあるだろうし、そう簡単には頷けないか。
しかしクリスティーナはニップル騎士団との和解も視野にいれているとグイグイ押してくる。
どうしたんだ? クリスティーナ。いつもの余裕はどうしたのよ。そもそもアンタがひとりで決めていいことなの? 四天王は私たちが次々に倒しちゃったけど、もう一人いるはずよね。そいつにも話を通さないといけないんじゃないの?
「フフフ、なんにも知らないような顔をして焦らしているつもり。すでにアイツらに倒されて魔術師側が押されっぱなしなのはわかってるんでしょう」
はい、わかってません。
「アイツらの標的は私たち魔術師だけじゃない。貴方たち忍者も含めて古い勢力を一掃するつもりよ」
なんだか話が大きくなってきたわね。風間会長の表情がさらに厳しくなったのを見るに、どうやら本当のことっぽいわね。
とりあえず私は分かった風を装っておくとしますか。モグモグ。