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「やはりたった一人か……。ここにいたはずの鬼も姿なく、捕えておいた忍者も一人として残っていない。いったいここでなにがあったのかな?」
予想通り、すでに確認済なのね。なかなか慎重なことで。
「まさか私を倒すため、ひとり待ち構えていたというわけでもあるまい? まずはあの結界をどうやってかいくぐったのか教えてほしいものだ」
なんて一見友好的な感じで言いながら、コソコソと術を発動しているのはどこのどちらさんかしら。
『そうだ。その感覚を忘れるな。どれほど優れた術者であろうと奇跡を発現させるため手続きが必要となる。その際の力の流れさえ察知できれば奇襲を恐れることなどなくなる』
まさか、自己流の気配察知でここまでのことができるなんてね。
『それもお前が持つ特異なる力がもたらした恩恵だ。その干渉の力は前提として優れた知覚をも与えてくれるのだ』
ふーん、まあ知覚できなければそもそも干渉できないわよね。これは盲点だったわ。どおりで気配察知なんてのを短期間でマスターできたはずね。
「どうした? なにか用があってここで待っていたのだろう? 先ほどから黙っているが何か反応をしめしてほしいのだがね。それともその無言は実力で吐かせてみろと示唆しているのか?」
相手からの圧力が増した! くる!
私は九条の攻撃に備えて身構えた。
「――なに!? なんだこれは!」
特になにもしていないのに九条が驚く。
ということはやはり悪魔さんが言ったとおりか。
『そうだ。どれほど高等な支配の術であろうとお前には届かない。なぜなら同系統の力で最高の知識がお前の魂には刻まれているのだからな。フフフ、我もまさか現在の人間にそのようなものがおるとは思わなかったぞ』
ごきげんなところ悪いけど、だからと言って油断のできる相手ではないのよ。
私は後ろ腰に隠していた銃を素早くぬくと間髪入れずに発射した。
赤い液体が九条に向けて発射されたけど、わずかにかすった程度で避けられたわ。ムムム、意外と身体能力が高いわね。
「なんだ? この赤い液体は……血か? ――熱っ! な、なんだこれは!?」
オホホホホ、お気に召して? ダナコ様特注のカプサイシン濃縮汁は。
「ふざけた攻撃を!」
おやおや、冷静さを失ってますわよ。カールハインツ流権謀術を学んだ私を前にそれは悪手だって教えてあげるわ。