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悪魔さんの話によるとあの男は流れの陰陽師らしい。素人の私にしてみれば流れの陰陽師ってなによ? と思うわけだけど。説明を聞くに期間工みたいなもんかな。定住しておらず、需要に応じてさまよう技術職ね。陰陽師の正社員枠なんてどこにもないだろうし将来に絶望しかないわ。
ヤツは九条と名乗っていたらしいけど、まあ偽名の可能性が高いわね。本名だとしても苗字だけじゃ特定も難しいだろうし。
その九条だが黒脛巾衆に雇われて新たな術の開発に協力していたそうだ。
黒脛巾衆の要望は伝説の鬼さえも打倒しうる強力な術だったそうで、風魔の里の一件が事の発端な気がしなくもない。もし風魔と敵対した場合のことを考えての保険のつもりだったとか?
風魔の里もそうだったけど、黒脛巾衆の里も当然ながら他の忍者の監視があったわけで、黒脛巾衆は九条の存在を隠して作業をさせていたらしい。
これが九条の暴走につながる。隠されている立場を利用して、影でこそこそと里の住人を対象に実験を繰り返していたのだ。
こうして自分のための実験を続けていたところ、今回の交流会の話が舞い込んでくる。当然ながら九条は術の開発など真面目にやってはいない。
そこで成果を求められた九条は新たに開発した強化術を施すと偽り、外法を使用して黒脛巾衆の代表者を作り変えた。彼らは生ける死人となり、九条が力を供給する限り動き続ける人形となったのである。
エドモンドや名前も知らない四天王もそうだったけど、なんで私が出会う術者ってヤツはゾンビを作るのが大好きなのよ。ヤツらはゾンビ映画の見すぎだと思うわ。
そして不死身の戦士に満足した黒脛巾衆は、お偉いさんを先頭に交流会へと出立した。このとき九条は黒脛巾衆を騙しとおすのがそろそろ限界だと悟り、里の戦力が減ったこのタイミングを好機とみて反逆を決めたそうな。
いや、アンタ最初から裏切ってるわよねとツッコミをいれたくなるほど、人として駄目駄目である。
そして九条はすでに手駒と化していた住人を使い、里に残っていたほとんどの住人を罠に陥れた。それは反逆であると同時に九条が試してみたかった実験をもかねていたのである。
九条は伝説の鬼というのを話半分程度に聞いていたのだが、それなりに興味をひかれていたそうだ。鬼を使役するというのは陰陽師として嗜みみたいなものだそうで。それほど強い鬼がいたのなら、今自分の持つこの環境でどこまで強力な鬼が呼び出せるかとかなんとか。
微塵もためらうことなく、ヤツは集めた生贄を使って鬼を呼び出す大外法を実行した。
こうして実験が成功した結果、悪魔さんがこの世に呼び出されたというわけだ。後は悪魔さん無双である。交流会から急いで戻ってきたお偉いさんたちもあっさりと全滅させ、手ぐすねを引いて私たちを待ち構えていたというわけね。