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私たちは男に連れられて村の中を進んでいった。
田んぼや畑に小さな木造の家かあ。他にも小屋らしきものがちらほら見えるけど。ほんと一見のどかな風景なのよねえ。
でも……、やっぱり人が一人もいないわ。家の様子なんかを見るに、長い間放っておかれたってわけでもなさそうだわ。
そういえば甲賀衆が最近連絡が取れなくなったって言ってたっけ。つまりそれまでは普通に暮らしていたんだわ。すくなくとも見張りの甲賀衆にはそう見えていた。
そしてここ数日のうちになにかがあったってことよね。交流会に黒脛巾衆の生ける屍を送ってくるなんて、胸糞悪いことをしかけてくるようななにかが。
その答えにつながるのがあの男……。いったい何者なのかしら? 黒脛巾衆? でもあの強力な術が忍術とも思えない。
本職の陰陽師? でもなんでそんなものが黒脛巾衆の里にいるのよ。主の黒脛巾衆をさしおいてさあ。
まあ、そのへんも含めて答えを教えてもらおうじゃないの。さあ、ちゃっちゃと案内しなさい。
私たちは山間の少しだけ開けた平地にあった里を横切り、山を背に構える大きな社へと到着した。
この里の規模にしてはやたらと立派すぎる社ね。……ってちょっと待て。なんなのよ、この臭いは。大量に線香を焚いているようだけど、それに紛れるこの臭いは完全に隠すことできやしないわよ。これはたぶん……。
境内に入るとその壮絶な光景が目に入ってきた。おそらくこの里の人たちだったのだろうそれは、いまは物言わぬ肉塊となって腐臭を漂わせている。
うぐっ、いまさらながら後悔したよ。こんな場所、超美少女がくるようなところじゃないわ。でも今更ひけない。
横たわるものをよけながら境内を進み建物のなかへ入ろうとする。ここでようやく私は違和感の正体に気が付いた。
ああ、思い出したくなかったのに思い出したわ。この感覚……。どうにもアンタたちと私には縁があるみたいね。
そこにいたのは黒くて大きい何か。室内が暗くてはっきりとは見えないけれど、この感覚とあいまって私には確信めいたものがあった。
徐々に暗がりに目がなれてくる。
鬼――いや悪魔といったほうが正しいのだろうか。その異形は前にあった悪魔との共通性はほとんどない。でもそれは間違いなく悪魔といって間違いのない存在だった。