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男は私たちについてくるように命令するとさっさと先に歩き出した。ジゴロあんちゃんをはじめとする風魔衆、そして軒猿衆はなんの感情も感じられない表情のまま言われた通り黙ってついていく。
仕方ない。ここは私もついていくしかないか。なんとなく悔しいからアヘ顔でついていくことにするわね、アヘアヘ。
小さな復讐を達成したことで満足した私は、歩きながらこのあとどうしようか冷静になって考えていた。アヘアヘ。
あの男はこの里に結界が施されていると言っていたわ。まずは待機している皆にこのことを知らせないとね。そうしないと今後も潜入を試みて、次々に罠にはまって被害が増えかねないわ。
私は先を歩く男と充分に距離があることを確認するとポシェットからトランシーバーを取り出す。
フフフ、さすがの強力な結界も最先端をいく文明の利器には対応していまい。
こちらジュリエットワン。里への侵入には失敗。結界が張られており、侵入したものは敵の支配下となる模様。今後の潜入は中断されたし。オーバー。
『……わかった。そっちは大丈夫なの?』
コラ、ちゃんと様式美を守りなさい。オーバー。
『冗談言ってる場合じゃない』
私はいつでも真面目です。オーバー。
『無事なら早くもどってくる』
つーん。オーバー。
『……』
……。オーバー。
『……こ、こちらロメオツー。今後の予定を報告してください。オーバー』
フッ、勝ったわ。
こちらジュリエットワン。なぜか支配を躱せた模様。うまく敵を騙せたのでこのまま侵入任務を続行します。オーバー。
『わかった。気を付けて』
あ、コラ。最後までちゃんとやり切りなさいよ。
まったく……、あの娘っ子はほんと駄目な娘ね。こんど徹底的に指導してあげよう。
私はトランシーバーを仕舞うと先頭を歩く男に注目した。
アイツ……、結界の力があったとしても、新開発されたお札の抵抗を難なく破った力は侮れないわ。たぶん四天王と同レベルの術者ね。できれば大勢でタコ殴りしてやりたいところだわ。
それにしてもどうして私だけ支配を受けなかったのかしら。ジゴロあんちゃんたちは結界に入った段階で少し影響を感じていたみたいだったのに。
そういえば私も支配をうけてるってわけじゃないけど、なんだか変な感じはしていたのよね。この感覚……、なんだろう。