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私たちは見るからに怪しげな男に対して警戒を強めた。私はともかくとして、手練れの風魔衆がここまで接近に気づかなかったというのは、みんな敵の術で感覚が鈍っているってことかしら。それともそんなの関係なしにこの男がヤバい相手なのか。
その怪しげな男なんだけど、一見ただの優男である。私の猫パンチで簡単にノックアウトできそうなくらい弱そうに見える。でも相手が術者となればそんな見た目など大してあてにはできない。むしろ弱そうなところが逆に不気味だわ。
男がこちらの様子を観察するようにじっくりと見ている。コヤツ……やはりできる!?
「考えてたって仕方ない。とりあえずはひっ捕まえて知ってることを吐かせるぜ」
さすがジゴロあんちゃん。あいかわらずの脳筋っぷりね。でも今はそんなところが心強くも感じるわ。
ジゴロあんちゃんの言葉に風魔衆が動いた。
「これは怖い。なので少し強引にこちらの言うことを聞いてもらうとしよう」
男がなにか印のようなものを結んだ。とたんに男を拘束しようとしていた風魔衆の動きが止まった。
うそん!? あんな簡単に無力化してしまうなんて。
「くそっ……! 身体が言うことを……聞かねえ」
「ほほう、まだしゃべれるとは。大した精神力だ。この里に施された結界と私の術で二重に支配されているというのに。だが、そのタフさでも次は耐え切れまい」
再び男が印を結んだ。今度はジゴロあんちゃんも完全に沈黙してしまったわ。
やばい!? どうする? 私は拘束に動かなかったから一人だけ後方にいる状態よ。はっきり言ってかなり目立つ。次の行動を素早く選択しなければ!
逃げるか? いや、たぶんそれは無理そう。なんとなくコイツからは強者のオーラ的なものを感じるから。かくなる上は!?
私は両手をブラーンと下げた。ついでに涎を垂らして操られてますよアピールに全力を注いだ。
うむ、どうやら男はたいして私の存在に注目しなかったようね。いや、ほんの少しだけヒかれたような気がしなくもないけど。まあそれはいいとして。
クックックッ、馬鹿ね。カールハインツ流生存術をマスターした私の擬態にまんまと騙されたわ。
せいぜい今は勝利の余韻にひたってなさい。すぐにその喉笛にくらいついてあげるわよ。