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しばらく待っていると軒猿衆が人工の林から姿を現した。人数は二人。
とりあえず一人は守りに置いてきたってとこかしらね。それにしても私たちが予想外の行動をしたことでかなり警戒しているみたいだわ。
「どういうつもりだ?」
声が聞こえるくらいに近づいたところで、軒猿衆のリーダーらしき男から声をかけられた。
フフフ、甘いわね。そんな質問、素直に答えるわけないじゃない。
私は返答代わりにニヤリと笑うと、おもむろに片手をあげてヤツらの注意をひきつける。それに呼応するように会長と副会長が左右に別れ、軒猿衆の背後にまわった。
囲まれるようなかたちになった軒猿衆はさらに警戒感を強める。
かなり慎重ね。でも残念、私たちの陣地に現れた時点でもう手遅れなのよ。
私はポシェットからすばやく秘密道具を取り出すと両手を掲げた。私たちの戦いを見守っていた人々の目が一斉に私の両手にひきつけられる。
左右それぞれの手には旗が握られていた。日本の心――日の丸である。
うむ、シンプルイズベストだわ。どやあ。
競技場に微妙な空気が漂うのを感じた。
フフフ、狙い通りよ。軒猿衆も私の行動にあっけにとられてるわ。でもそろそろ我に返るころね。
では次の行動に移りますか。私は呼吸を整えると予備動作に入る。
え? さっきの行動にどんな意味があったのか気になる? 意味なんてあるわけないでしょう。オホホホホ!
とりあえず私はこんな危険な場所から、さっさとおさらばさせてもらうわね。
あでゅー!
私は日ごろ鍛えた筋肉と干渉の力を遠慮なく発揮して、自身最高のスピードで逃げ出した。
陣地はグラウンドの端のほうにあるせいでそれほど後方に余裕はない。外縁部に沿って猛ダッシュよ! ヤツらとの距離をかせぐぜ、かせぐぜい!
度重なる意表を突いた行動で軒猿衆の反応も鈍い。慌てて私を追いかけてきたけどすでに距離は充分に稼いでるわ。
あの焦った様子は私たちの作戦に気づいたみたいね。そう……、とっくに会長たちはアンタたちの陣地を獲りにいってたのよ、ホーホッホッホ!
『――土遁震域の術』
むっ、後ろから追いかけてくるヤツらの声が聞こえた。なんだ? 技っぽい名前を叫んだ気がするけど、見えてないから怖すぎ。かといって振り向きたくない。
とりあえずダッシュよ!
と思ったら身体の異変に気が付く。うまく走れてないわ!? というかこれは足場が不安定でうまく前に進めてないのか。
「逃げるとはふざけた真似を!」
後ろを振り向くと二人が刀を抜いて襲い掛かってくる。
だけど残念だったわね。これだけの時間が稼げていれば――。
競技場に試合終了のブザーが鳴り響いた。