本来の物語などはありません
他クラスとの模擬戦の話が出たのは入学してから1ヶ月程だろうか、何処と無く親には見せられない顔で今日も失神していたリィンをそのまま教室に連れ帰り(周囲から不満の類が出た事は一度もない)、次の日の予定を担任が伝える場になっての事であった。
どうやら一月でマンネリ化しているだろう訓練へのモチベーションを高めるための催しである事はすぐにわかった。勝てば成長が確認できてやる気が上がり、負ければもっと成長が必要だと訓練に身が入るというやつだろう。
代表を5人づつ選出してとの事だが、私の参加は満場一致で可決どころかじゃあ4人決めないとという話で始まる程度には決まっていたらしい。きっと世界の矯正力だろう。
せっかくだから勝ちたいという皆に普段から訓練でも勝ちの多い順に決めたらどうかと提案してみれば、その前にとリィンが推薦された。あぁ、そういえば普段から失神が多くて勝ち数は少ないものの、実力で見ればクラスでも上位だろう。これも矯正力に違いない。
残りの3人は土属性の明るそうな男、火属性の若干不良めいた男、風属性のメガネの女だった。何処と無く友達ポジ、2話辺りの敵兼後からいい奴になるポジ、委員長ポジという言葉が頭に浮かぶ面子な辺り、なんとなく物語として重要なイベントをいくつもスキップしている気になる。
とはいえ友好を深めようにも近づくと物凄い勢いで視線を合わせないように最低限の会話で終わらせようとされる為上手くいかない。まともな会話になるのはリィンだけだが、こっちは出来るだけ好感度を稼げるようにしつつも不用意な発言をしないよう気をつける為神経を使う。
団体戦とはいえ一騎討ちが5回なのでどうやら一度戦えば良いだけ、勝ち抜きなら全部戦えたのになはははなどと冗談を言ってみたが笑い声は聞こえなかった。ジョークのセンスは無いのだろうか。若干へこむ。
相手はどうやら兄の居るクラスではないようで、どうやら大将は光属性だという話。上位属性というのが実にレアなんだなと思える程度には居ない様だが、私がそこに当てられるようだ。きっと本来ならば一夜漬けの秘密特訓か対策戦法などがあったに違いない。
むしろ負けイベントだったりするのかもしれない。希少な上位属性がこんなに強いんだ的な、中盤の盛り上がりかつ主人公を修行へと駆り立てる為の中間目標。ここで学んだ事が兄を越えるのに役立つ的なありがちな展開。
であれば、こちらも1つ胸を借りる気持ちで挑ませて頂こう。そう言ったら何故かクラス内でくすりと笑いが生まれた。
教育テレビの妹キャラがお兄ちゃんの目の前でおもらしするシーンが放映されていたのだからヒロインちゃんが万一主人公を見かけただけで失禁するようになっても全年齢対象であることは確定的に明らか