せやけどそれは只の吊り橋効果や
学園といっても、前世の学校とは全く別のものである事は分かっていたが、数日暮らしている間に訓練所とでも改名すべきだとは思った。
ここ数日の生活は教室では座学と称した魔物の知識や戦い方、その他の時間は訓練やトレーニングばかりであった。無論戦闘力の向上の場であえうだろうから文句などは無いのだが、属性力の向上トレーニングなど私にとっては意味の無い時間もそこそこあった訳で。
上の方には話が通っているのだろうか、担任こそ干渉してこない時間。自主的な訓練の時間を別に確保している分の休息にでも当てようかと寝ていれば、絡んでくる人間も居たりした訳で。
クラスメイトの過半は目すら合わせないようにしている中で堂々と人に話しかけてくる女子は、確かリィンといったか、1番最初に私に挑んできた少女であった。
およそ常識的な人間であればあれ程の実力差、更には失禁失神ダブルセットでプレゼントされれば関わり合いになりたくなどないだろうに、何故か旧来のテンプレツンデレ幼馴染とでも言わんばかりの態度が崩れない。
動悸や心拍数の上昇を鑑みるに、確実にこちらに対しては恐怖を覚えているに違いないのは知っている。対応した後で胸に手を当てて動悸を鎮めている様などは確実にホラーゲームプレイ後の小心者さながらである。
しかしそれでも、彼女はこちらへの接触を止めようとはしなかった。ちらりとこちらを見る視線が絡めば即座に視線を逸らす様などは明らかに小動物が捕食者と目が合ったと言わんばかりのものだが、それでもなお惚けるようにこちらを眺める事をやめない。
と、鈍感系主人公を気取ってはみたものの、客観的に事実だけを述べるならば実際には好意を持たれている可能性を考慮しなければならない。何故なのか。これがワカラナイ。物語の矯正力でヒロインが付いてきたとしか考えられない。
そう、控えめに言ってもリィンは美少女であった。属性が火の癖にキラキラと青空を思わせる青い髪、くりっとした海のように深い青の瞳。まるで作者が安直なカラーリングの逆をいこうとした心象が垣間見える。
プロポーションこそ抜群という訳では無いものの、ダイナマイト体型では無いと言うだけではっきりと主張する胸元やすらりと伸びる手脚などは充分にスタイルが良いという判定を貰える筈だ。悪くいえばテンプレ美少女体型である。ファーストヒロイン特有の主張しきらない系美少女。
であれば、この好意は本来主人公が努力を認められるとか実力を発揮してとかなんやかやの青春イベントなりなんなりを踏んで受けるべきものであり、紛い物である私などが受け取っていいものでは無いだろう。
かといってわざと嫌われたり関係を断つというのも考えものである。ヒロインの悲しい過去だったり将来迫る危険だったりというのは最早お約束であり、それらを解決するのは主人公。ならば私が居なければ不幸になるのかもしれないと思えば、それは不可能。
故に、まるで人の心を弄ぶような所業に手を染めざるを得なかった。信頼され、好感度が高くなければたとえ窮地であっても頼られないかもしれないし、影で不幸に塗れる可能性を払拭出来ない。本来救われるべき人間が不幸になるなど、許されるはずがない。
……果たしてこれが人間として正しい事かはわからないけれど、それでも私は、主人公なのだから。
リィンちゃんが今まで敗北や失敗を知らなかったが故にマゾヒストな本能が主人公に蹂躙されて開花した可能性なんてそんな、R15タグどころか18タグが必要になる展開あるはずないじゃないかー(棒)